中村 正治 教授、畠山 琢次 助教、橋本 徹 さんら「鉄触媒で鈴木-宮浦カップリング反応に成功」(2010年7月20日「Jornal of the American Chemical Society」誌にて発表)

平成22年11月 トピックス

中村正治 教授,畠山琢次 助教,橋本徹 さんら

(附属元素科学国際研究センター 典型元素機能化学領域)

2010年7月20日「Journal of the American Chemical Society」誌にて発表

 化学研究所の畠山琢次助教、大学院生の橋本徹さん、清家弘文博士研究員、高谷光准教授、小野輝男教授、中村正治教授らの研究グループは、普遍金属元素である鉄を触媒とした鈴木-宮浦カップリング反応の開発に成功しました。今後、液晶や医農薬中間体および原体の工業生産への応用が期待されています。

 鈴木-宮浦カップリング反応は、医薬品や有機エレクトロニクス材料など開発研究および工業生産に広く用いられており、開発者である鈴木章北海道大学名誉教授はその功績から、2010年10月にノーベル化学賞を受賞しています。同カップリング反応では通常、触媒として希少金属であるパラジウムが用いられていますが、経済性と環境調和性の観点から、次世代のカップリング反応触媒の開発研究が世界中で行われています。

 我々は、安価で毒性の低い鉄を触媒として用いることが出来れば、鈴木-宮浦カップリング反応の可能性が更に広がると考え、研究を行いました。当初は、なかなかカップリング反応が進行しなかったのですが、独自に開発した鉄ホスフィン錯体を触媒として用い(図1)、有機ホウ素化合物をブチルリチウムなどの有機金属反応剤を用いて活性化することで、種々のハロゲン化アルキルとアリールボロン酸ピナコールエステルとのクロスカップリング反応が、高収率・高選択的に進行することを見出しました(図2)。


図1 鉄触媒の結晶構造

 本反応は、従来のパラジウムを触媒として用いたクロスカップリング反応とは異なった反応機構で進行していることが示唆されています。また、そのことから、不活性な塩化アルキルが求電子剤として使用できたり、特徴的な官能基の選択性を示すなど、鉄触媒独自の反応性が明らかとなり、工業的にも新たな応用が可能であると期待されます。


図2 鈴木-宮浦カップリング反応の反応例

 本論文は、本年7月20日にJournal of the American Chemical Society 誌に速報として掲載されましたが、それからの10日間の掲載期間のダウンロードにより、7月のMost Read Articlesの20位に選ばれました。

●用語解説●

鈴木-宮浦カップリング反応: 有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化合物を反応基質として、両有機基を連結させる反応。類似の炭素-炭素結合生成反応の中でも反応条件が比較的温和であり官能基選択性も優れている。触媒としては一般にパラジム触媒が用いられる。

普遍金属(コモンメタル): ケイ素、アルミニウム、鉄、ナトリウムなど、資源性に優れた金属元素。希少金属(レアメタル)に比べ安価であることに加えて、環境調和性にも優れている。