ペロブスカイト太陽電池中の電子の振る舞いを解明 ~高効率太陽電池の実現に道~

山田 泰裕特定准教授、金光 義彦教授
若宮 淳志准教授、遠藤 克研究員

 


左から遠藤克研究員、金光義彦教授、山田泰裕特定准教授、若宮淳志准教授

この研究成果は、2014年7月30日のJournal of the American Chemical Society電子版に掲載されました。

 

 ナノ界面光機能寄附研究部門[住友電工グループ社会貢献基金]の山田泰裕特定准教授、金光義彦教授、構造有機化学研究領域の若宮淳志准教授、遠藤克研究員らの研究グループは、新しい太陽電池材料として近年活発な研究が行われているハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbI3)中の電子の振る舞いの解明に成功しました。
   
 太陽光エネルギーを利用する太陽電池は、最も重要な再生可能エネルギー創出技術の一つとして、ますますその重要性が増しています。太陽光エネルギーをさらに有効に利用するため、安価でかつ高効率な太陽電池の実現に向けた熾烈な研究・開発競争が世界中で活発に 行われています。単結晶シリコン太陽電池の場合、太陽光エネルギーの電気エネルギーへの変換効率はおよそ25%に達していますが、さらなる太陽電池の普及のためには、低コスト化・高効率化が求められており、新たな太陽電池材料の開発研究が進められています。
 今回の研究対象であるハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbX3)は、2009年に初めて太陽電池材料として報告された材料であり、基板やフィルムに「塗る」ことで作製できるという特徴をもちます。これを光吸収材料に用いたペロブスカイト太陽電池は「印刷技術」により作製でき、従来の太陽電池に比べて製造コストを大幅に下げることが可能な新たな太陽電池として世界中で急速に注目を集めています。2012年以降、その光電変換効率は驚異的な速さで向上し、実用化への期待も高まっています。
 しかし、高効率化を目指したデバイス開発といった応用研究が急速に進む一方で、高い変換効率をもたらす鍵となる基礎的な物性の理解はほとんど得られてい ませんでした。特に、本太陽電池の最も本質的な物性の一つである「光によって半導体中に励起される電子の振る舞い」については、これまで未解明のままでした。本研究では、発光や光吸収の時間変化を追跡することで、ペロブスカイト半導体の薄膜中で光によって励起された電子の挙動を明らかにすることに成功しました。その結果、これまでは有機太陽電池材料のように電子と正孔励起子と呼ばれる束縛状態を形成すると考えられていましたが、実際には電子と正孔はそれぞれ自由に運動していることを初めて突き止めました。
 
 

図1

 
 今回、本研究グループでは、発光と光吸収の時間変化を追跡することによって、励起子か自由電子かという問題を解決しました。300 fsという非常に短い時間幅の光パルス(励起光)を試料に照射した後、発光強度や光吸収が徐々に変化していく様子を観測し、その減衰時間を評価しました(図2)。図2に示すように、光励起直後の発光強度は励起するレーザーの強度の二乗に比例することが分かりました。このような振る舞いは励起子の場合には見られず、電子と正孔が互いに衝突することによって発光する場合に起こることが知られています。このことから、ペロブスカイト半導体中では、電子と正孔は 励起子を形成しておらず、自由に半導体中を運動していることが分かりました。また、発光と光吸収の減衰時間は励起光の強度に依存していることを見出しました。これは高密度励起状態では、電子と正孔の再結合が高効率に起こるためと考えられます。減衰時間の励起光強度依存性から電子と正孔の衝突の起こりやすさを評価したところ、GaAsなど既存の優れた光電子デバイス材料に匹敵する値を示しており、太陽電池だけでなく他の光電子デバイスへの応用も期待されます。
 

図2

 
 本研究の結果から、ペロブスカイト半導体は、光を吸収した際に、有機半導体のように励起子を形成するのではなく、多くの無機半導体のように自由な電子・正孔として振る舞っていることが分かりました。このことは、ペロブスカイト半導体を用いた太陽電池のデバイス設計において極めて重要な知見を与えるものであり、今後、この知見を基に、さらに高い光電変換効率を示す太陽電池デバイスの開発につながるものと期待されます。
 
●用語解説●

有機太陽電池:有機化合物を光吸収材料に用いた太陽電池であり、ペロブスカイト太陽電池と同様に印刷技術で製造できる次世代型の太陽電池として活発に開発研究が行われている。その最高光電変換効率は、セルで11.1%、モジュールで9.9%である。

正孔:半導体の中で、電子が抜けてできた空孔。電子は負の電荷を持っているのに対して、正孔はあたかも正の電荷を持った電子のように振る舞う。半導体中にあるエネルギー以上の光が入射すると、電子と正孔が作られる。

励起子:負の電荷を持つ電子と正の電荷を持つ正孔はクーロン力によって互いに引き合う。電子と正孔が互いに引き合うことで、水素原子のような陽子と電子に似た束縛状態を形成する。ある確率で励起子中の電子と正孔は再結合し、その際に光を放出する過程が発光である。

 

本学ホームページの掲載内容

 

この研究成果は、日刊工業新聞(8月20日 22面)に掲載されました。

 

Journal of the American Chemical Society誌のSpotlightに取り上げられました。

 

 本研究の一部は、住友電工グループ社会貢献基金、JST戦略的創造研究推進事業CREST、および、同さきがけの援助を受けて行われました。


Yamada, Y.; Nakamura, T.; Endo, M.; Wakamiya, A.; Kanemitsu, Y., Photocarrier Recombination Dynamics in CH3NH3PbI3 Thin Films, Journal of the American Chemical Society, 136, 11610-11613(2014).