高い磁気転移温度を持つハーフメタル新材料の合成に成功
陳 威廷元博士研究員、関 隼人さん、齊藤 高志助教、菅 大介助教、島川 祐一教授ら
左から島川祐一教授、菅大介助教、齊藤高志助教
研究グループでは、ペロブスカイト構造酸化物のAおよびBサイトにおいて、複数の元素が規則配列した新しいA-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCu3Fe2Re2O12を合成することに成功し、この物質が室温よりはるかに高い磁気転移温度と大きな磁化を持つフェリ磁性金属であることを見いだしました。さらに、電子状態の理論計算と多結晶粒界トンネル磁気抵抗効果の測定から、この材料が電気伝導特性を担う電子のスピンが偏極したハーフメタルであることも実証しました。この材料の磁気転移温度560 Kというのは、ハーフメタルとして知られている従来材料の転移温度と比べてかなり高く、また磁気転移温度以下で測定される磁化の値もはるかに大きいものです。このように室温よりはるかに高い転移温度を持つ材料を使うことで、実用温度域で安定して動作するデバイスを作製することができるようになります。また、大きな磁化や磁気抵抗を利用することで、従来よりも高密度・高感度なデバイスやセンサーなどを作製することも可能となります。


図1 A-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCu3Fe2Re2O12の磁気構造と磁気転移温度
スピントロニクス:電気伝導を担う電子において上向きスピンを持った電子の数と下向きスピンを持った電子の数の差。
スピン偏極率:電子を制御して電子機器を制御するエレクトロニクスと電子の持つスピンを制御する磁気工学が融合した新しい電子磁気制御技術。
ハーフメタル:強磁性金属において、電気伝導を担う電子が一方向のスピンだけからなる材料。理想的には100%スピン偏極した物質であり、高いスピン偏極率により磁気抵抗効果などスピンに依存した特性で大きな変化が観測しやすくなる。そのため、高密度な磁気メモリーや高感度なセンサーなどのスピントロニクスデバイスを作る上で既存の材料などに比べて有利となる。
フェリ磁性:2種類以上の磁性イオンが物質中にあって、お互いの磁気モーメントが反対方向を向くが、その大きさが異なるため、全体として強磁性的な磁化を示すような磁性。
粒界トンネル磁気抵抗効果:磁場の変化に応じて電気抵抗が変化する現象。スピン偏極した電子が薄い絶縁層(電気の流れない層)を介してトンネル効果によって伝導する際に、磁場によりそろえられたスピンの向きに応じて電気抵抗が変化するものをトンネル磁気抵抗効果と呼ぶ。小さい結晶粒が集まった多結晶試料では、結晶粒界が絶縁性のトンネルバリアになると考えられている。
本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)研究領域「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」(玉尾 皓平研究総括)の研究課題「異常原子価および特異配位構造を有する新物質の探索と新機能の探求」(研究代表者:島川教授)によって支援されました。
また、学術創成研究(19GS0207)、科学研究費補助金(22740227)、文部科学省特別経費「統合物質創製化学推進事業」、JST戦略的国際科学技術協力推進事業「日英研究交流」、平成23年度京都大学 化学研究所 「若手研究者国際短期受入事業」からの支援も受けました。