村田靖次郎教授、若宮淳志准教授、佐藤基さん「高い溶解性をもつT字型電子受容性骨格(SaT)を開発」(2014年3月26日に日刊工業新聞に掲載)

平成26年3月 トピックス

若宮 淳志准教授、佐藤 基さん、村田 靖次郎教授ら
(物質創製化学研究系 構造有機化学研究領域)

左から村田靖次郎教授、若宮淳志准教授、佐藤基さん

 物質創製化学研究系 構造有機化学研究領域の若宮淳志准教授、佐藤基さん(大学院生)、村田靖次郎教授らの研究グループは、有機太陽電池向けに独自に設計した、溶解性の高いT字型電子受容性骨格(SaT)の開発に成功しました。
 有機薄膜太陽電池は、次世代型太陽電池の一つとして期待され、世界中で活発に研究が行われています。有機薄膜太陽電池の高効率化には、高い電荷移動度と可視光領域の光吸収特性をもつ優れた有機半導体材料の開発が求められています。高い電荷移動度を実現するには、分子に高い平面性をもたせて、固体状態で分子どうしが密に重なるようにすることが一つの設計指針です。しかし、一方で、そのような平面性の高い分子は一般的に溶解性が低く、有機エレクトロニクスの利点の一つである印刷プロセスへの適用が難しいという問題がありました。

図1 可溶性T字型電子受容性骨格(Soluble T-shaped Electron-accepting Unit (SaT))の分子設計コンセプト

 そこで本研究グループは、高い平面性と溶解性をあわせもつ新たな電子受容性の骨格として、ベンゾチアジアゾールにチアゾールを縮環させたT 字型の電子受容性骨格を設計・開発しました(図1)。
 モデル化合物として合成した分子は、単結晶X線構造解析の結果、結晶中では、分子内の窒素と硫黄の相互作用(S…N 相互作用)により平面構造をもち、約3.4 Åの距離で密にパッキングしていることが明らかになりました。一方で、理論計算の結果、連結した五員環は10 kcal/mol程度の小さな回転障壁をもち、溶液中では自由に回転できることが示唆されました。実際に本分子は、この特性に起因して、一般的な有機溶媒に対して著しく高い溶解性をもつことが明らかになりました。これらの結果は、S…N 相互作用をうまく利用することにより、固体状態での高い平面性と有機溶媒に対する高い溶解性をあわせもつ骨格を構築することが可能であることを示すものです。
 T 字型のモデル分子の光物性を測定したところ、可視光領域に複数の吸収帯(マルチ光吸収特性)を示すことが確認されました。理論計算の結果から、これらの吸収帯は、T 字型構造を介して横方向の骨格と縦方向の骨格に広がるπ軌道からの遷移であることが示唆されており、本骨格が T 字型のπ共役ジャンクションとして機能して、マルチ吸収特性の実現を可能にしていることが明らかになりました。また、電気化学的測定の結果、ベンゾチアジアゾールにチアゾールが縮環した本分子は、従来のフッ素置換体と比べても高い電子受容性もち、さらにその電子受容性はチアゾール骨格を介して T 字型の側鎖として導入する置換基の電子効果によっても精密に制御可能であることも見出しました。
 以上、本研究において、新たに開発した T 字型骨格(SaT)が、1)固体状態で平面構造(密なパッキング)をもちながら高い溶解性をあわせもつ、2)T 字型のπ共役ジャンクションに起因してマルチ光吸収特性をもつ、3)電子受容性の精密制御が可能といった特徴をもつことを明らかにしました。今後、本骨格と様々な電子供与性の骨格とを組み合わせた D-A 型材料へと展開するなど、これら本骨格の特徴を活かした材料開発を進めることで、有機薄膜太陽電池の性能向上につながるものと期待されます。
この研究成果は、日刊工業新聞(3月26日26面)に掲載されました。
Satou, M.; Uchinaga, K.; Wakamiya, A.; Murata, Y., Thiazole-Fused Benzothiadiazole as a Key Skeleton for T-Shaped Electron-Accepting Building Blocks, Chem. Lett., (2014)(in press).