正井 博和助教、横尾 俊信教授、鈴木 優斗さん、山田 泰裕特定准教授、金光 義彦教授ら「酸化物ガラスにおける2価スズカチオンの特異的な発光機構を発見」(2013年12月18日「Scientific Reports」誌にオンライン公開)

平成26年1月 トピックス
正井 博和助教、横尾 俊信教授、鈴木 優斗さん
(2013年3月修士課程修了)
(材料機能化学研究系 無機フォトニクス材料研究領域)
山田 泰裕特定准教授、金光 義彦教授ら

(寄附研究部門 ナノ界面光機能)

横尾俊信教授、正井博和助教、金光義彦教授、山田泰裕特定准教授(写真左より)

この研究成果は、2013年12月18日に英国ネイチャー出版グループのオンライン科学誌Scientific Reportsに掲載されました。
 材料機能化学研究系 無機フォトニクス材料研究領域の正井博和助教、横尾俊信教授、鈴木優斗さん、寄附研究部門 ナノ界面光機能の山田泰裕准教授、金光義彦教授らの研究グループは、2価スズカチオンがホウ酸塩ガラス中において、結晶材料中とは異なる特異的な発光機構を示すことを実証しました。
 ランダム構造を有する酸化物ガラスは、その局所構造に由来した多様な物性が発現可能です。最近では、光ファイバなど光を伝達する機能に留まらない、新しいガラス材料の応用研究も盛んに行われています。透明なガラスの応用例である発光材料としては、従来、希土類カチオンを用いた材料が主として研究されてきました。一方で、当グループにおいては、2価スズカチオンを発光中心として有する酸化物ガラスに関する研究を近年行っており、希土類含有結晶蛍光体に匹敵する高い内部量子効率を報告してきました。ただし、スズカチオンの酸化物ガラス中における発光機構に関しては、未解決でした。
 本研究グループは、ランダムなネットワーク構造を有する酸化物ガラスにおける発光機構を、同様の化学組成を有する結晶と比較することにより研究しました。2価スズカチオンは、発光中心周囲の局所構造の影響を受け、発光スペクトルが変化します。研究グループは、京都大学大学院工学研究科 寺村謙太郎准教授と協力してSPring-8にてXAFS測定を行うことにより、2価スズカチオンが酸化物ガラス中に分散していることを確かめました。また、その発光がホスト材料の構造の周期性に依存したものであることを実証しました。図1に示すように、2価スズカチオンはガラス中で幅広い発光スペクトルを示しますが、結晶中ではそのスペクトル幅は狭くなります。また、発光の減衰時間は結晶中ではマイクロ秒(りん光)であるのに対して、ガラス中でナノ秒(蛍光)の発光も存在することも明らかになりました。Sn2+におけるナノ秒の発光は、これまでに報告がなく、また、その発光ピーク位置も従来よりもかなり低いエネルギーにあらわれます。蛍光は1重項励起状態からの発光であるのに対して、りん光は1重項励起状態からのエネルギー変化(項間交差)を経た3重項励起状態からの発光です。酸化物ガラス中において、りん光と蛍光のエネルギー差が小さいことから、項間交差に係るエネルギー損失を低減でき、酸化物ガラスにおいても高い発光効率を実現可能であることを示した結果です。ランダムなネットワーク構造を有する酸化物ガラス中における発光は、今後、従来の粉末結晶蛍光体とは異なり未知の部分も多く残されており、新しい透明発光材料としての実現に向け、構造と物性とのより深い理解が必要です。
 本研究成果は、平成24年度「化研らしい融合的・開拓的研究」の研究課題として実施されたものであり、多分野の研究者から構成される化学研究所ならではの研究成果のひとつといえます。

図1 ホウ酸塩ガラス(左図)および結晶(右図)における2価スズカチオンの発光スペクトル(上図)および、発光のストリークイメージ(下図)
 本成果の一部は、平成24年度「化研らしい融合的・開拓的研究」の研究課題「ns2型発光中心を含有する新規酸化物ガラス蛍光体における発光機構の解明」によって支援されました。