吾郷 友宏助教、和佐野 達也さん、時任 宣博教授ら「アルモールとそのジアニオンの合成に成功」(2013年8月8日「Angewandte Chemie International Edition」誌にオンライン公開)

平成25年8月 トピックス

吾郷 友宏助教、和佐野 達也さん、
時任 宣博教授ら

(物質創製化学研究系 有機元素化学研究領域)


左から吾郷 友宏助教、和佐野 達也さん、時任 宣博教授

この研究成果は、2013年8月8日にAngewandte Chemie International Edition誌にオンライン公開され、同誌のVIP(Very Important Papers)に選出されました。
 物質創製化学研究系 有機元素化学研究領域の吾郷 友宏助教、和佐野 達也さん、時任 宣博教授、京都大学福井謙一記念研究センターのジン ペン博士研究員、永瀬 茂教授の研究グループは、含アルミニウムπ共役化合物の一つであるアルモール(アルミナシクロペンタジエン)の合成・単離に初めて成功し、その構造や性質を明らかにしました。
 電子欠損性の13族元素とπ電子系を組み合わせたヘテロπ共役化合物は、LUMO準位の低下によって電子受容性やルイス酸性の向上が期待されます。実際に、含ホウ素π共役化合物において、ホウ素上の空の2p軌道とπ電子系との共役に起因した特異な物性や反応性が見出されており、新たなタイプの機能性分子として注目されています。一方、アルミニウムなどの高周期13族元素を導入したπ共役化合物は報告例が非常に少なく、π電子系に対する高周期13族元素の電子的効果は明らかにされていません。研究グループは、かさ高い置換基を活用することで、含アルミニウムπ共役化合物の一つであるアルモール(アルミナシクロペンタジエン)の合成・単離に初めて成功し、その構造や性質を明らかにしました。これまでの含13族元素ヘテロール類に関する研究はボロール誘導体に限られており、アルモールなどの高周期13族元素を含むヘテロール類の性質はほとんど分かっていませんでした。

図1 アルモール1およびそのジアニオン2の合成

 かさ高いMes*基を有するアルモール1は、Mes*AlCl2に対しジリチオブタジエン誘導体を作用させることで無色結晶として合成することができました。X線結晶構造解析から、アルモール1のAlC4五員環部位にはC-C結合交替が存在することが示されました。化合物1のDFT計算を行ったところ、アルミニウム上の空の3p軌道とブタジエン部位のπ*軌道の共役によってLUMO準位が低下しており、電子受容性が向上することが示唆されました。そこで化合物1の還元反応を検討したところ、金属リチウムとの反応によりアルモールジアニオンのリチウム塩2を合成・単離することに成功しました。化合物2は空気や水に対し極めて敏感なオレンジ色の結晶として得られ、X線結晶構造解析から2つのリチウムイオンがAlC4環の上下に結合した構造であることが分かりました。平面のAlC4環にはC-C結合交替は見られませんでしたが、理論計算からリチウムイオンとAlC4環との相互作用がこのような構造の安定化に重要であることが明らかになりました。リチウム塩2とヨウ素などの求電子剤との反応では、二電子酸化が進行し化合物1が再生したことから、12が二電子授受型の反応の触媒になりうることが示唆されました。以上の結果は、アルミニウムとπ電子系との電子的相互作用が電子受容体などの機能性分子の開発に有効であることを示すものであり、典型元素化学や有機金属化学分野に大きく貢献することができました。

図2 アルモール1(a)およびジアニオン2(b)の単結晶X線結晶構造解析

 本研究の一部は、科学研究費基盤研究(B)、基盤研究(C)、挑戦的萌芽研究、新学術領域研究(研究領域提案型)、理化学研究所基礎科学研究課題プロジェクト「分子システム研究」、および公益財団法人京都技術科学センターの助成を受けて行われました。