小野 輝男教授ら「磁石を使ったメモリに道:情報の熱安定性と低消費電力デバイス動作を両立」(2013年6月17日「Nature Communications」誌にオンライン公開)

平成25年6月 トピックス

小野 輝男教授ら
(材料機能化学研究系 ナノスピントロニクス研究領域)


後列左より平松 亮さん、上田 浩平さん、小野 輝男教授
前列左よりKim, Kab-Jin助教、吉村 瑶子さん

この研究成果は、2013年6月17日のNature Communicationsに掲載されました。
材料機能化学研究系ナノスピントロニクス研究領域の小野 輝男教授、小林 研介准教授(現大阪大学教授)、千葉 大地准教授(現東京大学准教授)、Kim, Kab-Jin助教、大学院生の小山 知弘さん(現 東京大学助教)、上田 浩平さん、平松 亮さん、吉村 瑶子さん(以上、京都大学化学研究所)、仲谷 栄伸教授(電気通信大学)、大野 英男教授、山ノ内 路彦助教、深見 俊輔博士(以上東北大学)、河野 浩准教授(大阪大学)、多々良 源博士(理研)との共同研究で、強磁性ナノ細線における磁壁移動の閾値を決める障壁が、電流と磁場で全く異なることを見いだし、その定量評価に成功しました。
 研究チームは、コバルトとニッケルを積層した強磁性薄膜を100ナノメートル程度の幅の細線に加工し、細線中の磁壁を電流や磁場で駆動する実験を室温で行いました。磁壁を電流や磁場で動かす時に動き出す閾値を、閾電流、閾磁場と定義します。閾磁場は細線エッジの凸凹や欠陥などの外因的な要因(外因性ピンニング)で決まることが知られていて、その値から磁壁に対するエネルギー障壁(ピニングポテンシャル)の大きさが評価されます。研究チームは、閾電流からも磁壁に対するエネルギー障壁の大きさを評価できることを示し、その大きさを定量的に見積もりました。驚いたことに、得られた磁壁に対するエネルギー障壁の大きさは磁場の場合と電流の場合で大きく異なっていました。具体的には、磁場に対しては室温のエネルギーの400倍程度、電流に対しては60倍程度でした。
 これらの結果は、磁壁を磁場で駆動する場合と電流で駆動する場合の2種類のエネルギー障壁があることを示しています。また、理論的考察から、磁場に対するエネルギー障壁が情報安定性を決め、電流に対するエネルギー障壁が磁壁の移動しやすさ(消費電力)を決めるということが分かりました。これらのエネルギー障壁は試料形状や材料特性で独立に制御することが可能であると考えられ、独立した2種類の障壁を利用することで情報保持の安定性と低消費電力化の両立が可能であると期待されます。さらに、室温エネルギーの60倍の障壁によって10年の記録保持が可能であることが分かっており、実験で得られた室温エネルギーの400倍の障壁は応用上も十分な大きさであることも明らかとなりました。
情報の熱安定性と低消費電力デバイス動作を両立させる2種類の障壁:
(a) 磁壁は場所(q)と傾き(φ)の2つの自由度を持つ。今回の研究で、この2つの自由度に対応する2種類の障壁があることがわかった。
(b) 電流を流すと、ポテンシャルがφ方向に傾き、磁壁がφ方向の障壁を乗り越える。磁壁は等ポテンシャル面を移動し、その場所(q)も変わる。
(c) 電流が流れていない場合は、熱エネルギーで磁壁がφ方向の障壁を乗り越えてしまったとしても、場所(q)は変わらず、位置情報は保持される。

本学ホームページ

本研究の一部は、科研費基盤研究(S)「新規スピンダイナミクスデバイスの研究」、最先端研究開発支援プログラム「省エネルギー・スピントロニクス論理集積回路の研究開発」、および京都大学化学研究所共同利用・共同研究課題によって支援されました。