Vu, Thi Dieu Huongさん、宗林 由樹 教授「インド洋における微量9元素の南北鉛直断面分布とストイキオメトリーを解明」(2013年4月29日「Scientific Reports」誌にオンライン公開)

平成25年4月 トピックス

Vu, Thi Dieu Huongさん、宗林 由樹 教授
(環境物質化学研究系 水圏環境解析化学研究領域)


宗林 由樹 教授(左)とVu, Thi Dieu Huong さん(右)

この研究成果は、2013年4月29日(日本時間30日)の英国科学誌Scientific Reportsオンライン誌に掲載されました。
 京都大学化学研究所のVu, Thi Dieu Huongさん(2012年3月修士課程修了)と宗林由樹教授は、研究船白鳳丸のKH-09-4航海において、インド洋における溶存態微量9元素の南北鉛直断面分布とストイキオメトリーを世界で初めて解明しました。
 40億年におよぶ海洋の歴史において、微量金属の濃度と分布は大きく変化し、生物進化にも影響をおよぼしたと考えられています。現代の海洋では、広い海域で鉄が生物生産の制限因子となっています。一方、人間活動によると考えられる外洋の鉛の変動が報告されました。しかし、現代海洋における微量金属の三次元的分布については、まだ十分なデータがありません。特にインド洋はデータの乏しい海域です。GEOTRACES Japanのグループは、研究船白鳳丸KH-09-4航海において、インド洋の観測を行いました。私たちは、微量金属9元素(Al、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Pb)をキレート吸着剤固相抽出で一括濃縮分離し、ICP質量分析法で定量する方法により、溶存態微量9元素のインド洋南北鉛直断面分布を明らかにしました。
 Al、Mn、Co、Pbは北部の表層で濃度が高く、深層で濃度が低いスキャベンジ型の分布を示しました。Ni、Cu、Zn、Cdは表層で濃度が低く、北部の深層で濃度が高い栄養塩型の分布を示しました。Feはこれらと異なる分布を示し、ほとんどの測点の表層できわめて低濃度であり、栄養塩とともに生物生産の制限因子であると考えられました。マンガンとアルミニウムの濃度比(Mn/Al)は、表層の光還元、酸素極小層における微生物によるマンガン還元、および還元的な海底熱水を起源とする熱水プルームなどのよい指標となることがわかりました(図1)。金属とリンの比(M/P)は、インド洋の水塊の間では大きく変動しますが、インド洋深層水と太平洋深層水ではよく似ています。深層水のMn/P、Fe/P、Co/Pは、植物プランクトンの比よりずっと低く、深層水が湧昇しただけでは、これらの元素は植物プランクトンにとって不足することがわかりました。

図1 インド洋東経70度における海水中マンガン/アルミニウム濃度比の鉛直断面分布

 これらの結果は、インド洋および世界海洋の物質循環、生態系と生物多様性、人類による海洋汚染を考えるうえで、基本的な情報になると期待されます。

本研究の一部は、科学研究費補助金基盤研究(A)、公益財団法人鉄鋼環境基金の助成を受けて行われました。