村田 靖次郎教授ら 「単結晶X線解析によるヘリウム原子の観測、ならびにヘリウム原子と窒素原子を同時に内包させたフラーレンの発生に世界で初めて成功」(2013年3月5日「Nature Communications」誌にオンライン公開)

平成25年3月 トピックス

村田 靖次郎教授、森中 裕太さん、
若宮 淳志准教授、村田 理尚助教ら
(物質創製化学研究系構造有機化学研究領域)


前列左)村田教授、前列右)森中さん、
後列左)村田助教、後列右)若宮准教授

この研究成果は、2013年3月5日(日本時間6日)の英国科学誌 Nature Communications オンライン誌に掲載されました。

 京都大学化学研究所の村田 靖次郎教授、森中 裕太 さん(博士課程3年)、若宮 淳志准教授、村田 理尚助教らの研究グループは、筑波大学等との共同研究により、最も小さな希ガス原子であるヘリウムを単結晶X線構造解析により初めて観測し、また、ヘリウム原子ならびに窒素原子を同時に内包させたフラーレン C60ならびにC70を発生させる手法を開発しました。

研究の背景
ヘリウムは希ガスの中でも最も小さな原子であり、常圧の条件では絶対0度付近においても液体であるため、常圧での単結晶X線解析による観測はこれまで例がありませんでした。また、フラーレン内部に原子や分子を挿入する手法は「アーク放電法」、「イオン注入法」、「高温高圧処理法」、ならびに「有機化学的な分子手術法」が個別の元素にのみ適用できることが知られているに過ぎませんでした。

研究の概要
今回の研究では、「分子手術法」により合成したヘリウム内包C60の内包率を向上させ、C60の内部に閉じ込めたままで単結晶化し、Spring-8(ビームラインBL38B1)の強力なX線を用いることによって、初めて、単結晶解析においてヘリウム原子が観測され、フラーレン内部においても動いている様子が明らかとなりました。


図1 2枚のポルフィリンに挟まれたHe@C60の単結晶X線構造解析

 フラーレンC60とC70の内部には、ヘリウム原子が入っている状態でも、内部に狭い空間が残っています。そこで、この空間にイオン注入法の1種である「窒素プラズマ法」を用いて、窒素原子を追加で内包させることを試みました。その結果、C60とC70のいずれの場合でも、ヘリウム原子と窒素原子が同時に内包されることが、窒素原子由来の電子スピン共鳴スペクトルを測定することにより明らかになりました。さらに、生成したHeN@C60の質量スペクトルを観測することにも成功しました。


図2 ヘリウム原子と窒素原子を内包したフラーレン「HeN@C60」の発生

今後の展開
今回、「分子手術法」と「窒素プラズマ法」を段階的に組み合わせることにより、これまでに報告例の無い、異種原子を同時に内包したフラーレンを発生させる手法を開発しました。内包フラーレンは、太陽電池、磁性半導体、量子コンピュータ等に応用が期待されており、本研究で開発した手法を用いることによって、多種多様な機能性化合物の開発に繋がる可能性があります。

●用語解説●

フラーレン:

炭素原子が球状に結合して構成される球状分子。1985年に最初のフラーレンC60が発見され、1990年にアーク放電法による大量合成法が確立された。1996年のノーベル化学賞は、フラーレンを発見した3人の研究者に与えられた。

イオン注入法:中空のフラーレンC60あるいはC70を真空下で昇華させ、そこへ窒素やリチウムのプラズマを作用させることによって、窒素原子を内包したフラーレン、あるいは、リチウム内包フラーレンを合成する手法。

分子手術法:京都大学 化学研究所の小松 紘一教授・村田 靖次郎教授らによって開発された、新しい内包フラーレン合成法。穏和な条件下での有機化学反応によりフラーレンに開口部を構築し、そこから水素分子・ヘリウム原子・水分子を内部に高効率で挿入し、その後開口部を修復することによって、元のフラーレン骨格を再生させる。

電子スピン共鳴スペクトル:磁気共鳴吸収法のひとつで、有機化合物中の不対電子(ラジカル)の構造を解明するのに非常に優れた測定法。

本研究プロジェクトは、以下の研究費・制度の支援を受けて行われたものです。

  • 京都大学化学研究所 共同利用・共同拠点 筑波大学赤阪健教授との共同研究課題
  • 文部科学省特別経費「統合物質創製化学推進事業」―先導的合成の新学術基盤構築と次世代中核研究者の育成―(北海道大学、名古屋大学、京都大学、九州大学)(本学担当部局:化学研究所 附属元素科学国際研究センター)
  • 公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)
  • 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)「高次π空間の創発と機能開発」
  • 独立行政法人科学技術振興機構 さきがけ「分子技術と新機能創出」領域

本学ホームページ

・論文は以下に掲載されております。
http://www.nature.com/ncomms/journal/v4/n3/full/ncomms2574.html

・京都新聞(3月6日 25面)、日刊工業新聞(3月6日 17面)および日本経済新聞(3月12日 17面)に掲載されました。