千葉 大地准教授、河口 真志さん、島村 一利さん、小野 輝男教授ら「電圧で局所的な磁極反転スピードが20倍に向上 ~将来的な磁気メモリの省エネ書込みに新手法~」(2012年6月6日「Nature Communications」誌にオンライン公開)

平成24年6月 トピックス

千葉大地准教授、河口真志さん、島村一利さん、小林研介准教授(現大阪大学教授)、小野輝男教授ら

(材料機能化学系 ナノスピントロニクス研究領域)


前列左より千葉 大地准教授、島村 一利さん、河口真志さん 後列左より小野 輝男教授、小林 研介准教授

この研究成果は、2012年6月6日のNature Communicationsに掲載されました。
材料機能化学系ナノスピントロニクス研究領域の千葉大地准教授、河口真志さん、島村一利さん、小野輝男教授、小林研介准教授(現大阪大学教授)、日本電気株式会社 (NEC)の深見俊輔氏(現東北大学助教)、石綿延行氏からなる研究チームは、絶縁膜を介して磁石に電圧を加えることで、室温で磁壁の移動スピードを20倍変えられることを初めて示しました。この発見により、局所的な磁極の反転スピードを大幅に向上できることが分かりました。
 磁気メモリやハードディスクなど磁石を使った情報記録装置では、磁石の磁極の向きを反転することで情報を書き込んでいます。磁極方向を反転するためにはいくつか手法がありますが、その一つに磁壁(異なる磁極方向を持つ磁区と磁区の境界にできるナノスケールの磁化のねじれ領域(図1))移動の利用があります。磁界や電流を加えると磁壁を動かすことができ、局所領域の磁極方向が反転するので、これを高密度情報の書き込みに利用する試みが積極的に行われています。ところが、これまで磁壁の移動スピード(書き込み速度)を応用上必要とされるレベルまで上げるには、強い磁界や大きな電流を加える必要があり、少ないエネルギーでスピードを向上させる手法が求められていました。

図1 素子構造。コバルトの細線の幅は20マイクロメートルです。細線上に、酸化ハフニウム絶縁膜、金の対向電極を配し、コバルトに絶縁膜を介して電圧を印加できる構造となっています。矢印は原子一個一個の磁化方向を示しています。磁化のねじれ構造が磁壁です。図内の赤矢印の方向に磁界を加えると、磁壁は右側に移動し、下向きの磁化領域が広がります。つまり、局所的な磁極反転を引き起こすことができるようになります。

 同チームは昨年、コバルト磁石の薄膜に絶縁膜を介して電圧を加えることで、磁石の性質を消したり元に戻したりできる興味深い現象を報告し、また磁極方向を反転させるのに必要な磁界(反転磁界)についても、加えた電圧によって変化することをつきとめていました。
 今回、この成果を基盤に、同様な素子に電圧を加えた際の磁壁のスピード変化を、電気的・光学的両手法を用いて詳しく解析したところ、反転磁界を決める要因の一つに、磁壁の移動が深く関わっていることが新たに分かりました。さらに、加える電圧によって、磁壁が移動するために越える必要のあるエネルギー障壁の高さが決まり(図3)、その移動スピードを最大で20倍に向上できることを見つけました(図2)。これは、局所的な磁極反転のスピードを向上させる新しい手法となり得る成果です。この新手法によって、少ないエネルギーで応用上必要な磁壁スピードが得られれば、将来的に磁壁の移動を用いた磁気メモリをはじめとする情報記録装置の書き込みに、飛躍的な省エネ化・高速化の道が開けます。

図2 磁壁のスピードの印加電圧依存性。縦軸は対数スケールです。黒・赤・青の点は異なる磁界強度で観測した結果です。正負の印加電圧で、最大で20倍の磁壁のスピードの変化を観測しました。

図3 磁壁スピードが電圧を加えることで変化する概念図。磁界を加えると、磁壁は系の磁気エネルギーを下げる方向へ移動を始めます。このとき、磁壁は細線中にランダムに存在するピンサイトを渡り歩いて移動します。隣のピンサイトに移動するために乗り越えるエネルギー障壁の高さが、負の印加電圧では低くなり、正の印加電圧では高くなることで、磁壁スピードが増減することが分かりました。

本学ホームページ

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「ナノシステムと機能創発」研究領域(研究総括:長田 義仁[理化学研究所])における研究課題「電界による磁化スイッチングの実現とナノスケールの磁気メモリの書込み手法への応用」(研究者:千葉 大地、研究期間:2010年~2013年度)の一環として行われ、一部は、科学研究費補助金 若手研究(A)および科学研究費補助金 基盤研究(S)、最先端研究開発支援プログラム「省エネルギー・スピントロニクス論理集積回路の研究開発」の助成を受けて行われました。

この研究成果は、京都新聞(6月7日朝刊23面)、日刊工業新聞(6月7日21面)、日経産業新聞(6月7日11面)、及びYahooニュースに掲載されました。