吉田 弘幸助教「有機半導体の新・伝導準位測定法と装置を発明」(2012年5月8日「Chemical Physics Letters」誌にオンライン公開)

平成24年5月 トピックス

吉田 弘幸助教
(複合基盤化学研究系 分子集合解析研究領域)


吉田 弘幸助教

この研究成果は、2012年5月8日のChemical Physics Letters電子版に掲載されました。

複合基盤化学研究系 分子集合解析研究領域の吉田 弘幸助教は、有機半導体内部の電子の通り道である伝導準位を正確に測定する、革新的な新測定法を開発しました。

ポイント
・電子線を照射し材料を劣化させずに近紫外光を検出
・電子の通り道を高感度で正確に測定する画期的手法
・太陽電池や有機ELの機構解明や、材料開発への広範な応用と加速に期待

 電気を流す特殊なプラスチックである有機半導体を用いた、太陽電池や有機ELなどが盛んに研究されています。有機半導体は、ホール(正の電荷)と電子(負の電荷)が働くことにより動作します。しかし、ホールの通り道である「価電子準位」については光電子分光法という測定法があるのに対し、電子の通り道である「伝導準位」を正確に調べる方法はありませんでした。ホールと電子の両方の挙動が分かって初めて有機半導体のデバイスとしての機能や潜在能力を理解することができるため、伝導準位の測定手法の確立が切望されてきました。ところが、最も有力な逆光電子分光法では、電子の照射によって有機材料が損傷を受けて測定不能になるだけでなく、光検出の分解能が低いなどの課題が多く、これまで信頼できる測定はありませんでした。

 今回、この逆光電子分光法で、理論上非常に困難とされる超低速電子を用い、照射する電子線エネルギーをこれまでの5分の1に下げて有機半導体に照射し、電子が伝導準位に入る時に放出される微弱な近紫外光を検出することで、伝導準位の測定に成功しました。この測定法では、電子のエネルギーが分子の共有結合よりも小さいため、従来の問題点であった電子線による有機半導体の損傷を100分の1以下に抑えることができました。また、光検出の分解能0.3eV以下を達成し、伝導準位を表す基本的な指標である電子親和力を、デバイス研究に必要とされる精度で測定できることが証明されました。

 本研究成果によって、電子親和力を精密に測定できることから、あらゆる有機半導体の識別や改良に幅広く応用できるようになります。開発された装置の扱いも容易なため、今後は有機半導体デバイスの動作機構の解明やその材料開発に活かされ、有機半導体研究に欠かせない手法として広く普及していくことが期待されます。

●用語解説●

伝導準位:固体中で電子の入っていない準位。空準位とも呼ぶ。負の電荷を担う電子の通り道。

価電子準位:固体中で電子の詰まっている準位。正の電荷を担うホールの通り道。

光電子分光法:物質に光を照射し、放出される電子のエネルギーを分析することで、価電子準位を調べる実験手法。

逆光電子分光法:試料の外部から電子線を試料に照射し伝導準位に電子を注入し、この際に発生する光エネルギーと強度の関係を精密に測定することで、物質内部の伝導準位を調べる実験手法。固体試料の価電子帯に直接電子を注入することから、デバイス中における電子の状態にきわめて近い条件で伝導準位を測定することが可能。

分解能:分光器などにおいて、2つの接近したスペクトル線を分離できる能力。測定機器の性能を表す指標の1つである。

電子親和力:物質が電子と結合する際に放出するエネルギー。固体の場合は伝導準位の最低エネルギーであり、電子との結合しやすさの指標である。逆光電子分光法では、スペクトルの立ち上がりが伝導準位の下端に対応するので、この値と真空準位の差が電子親和力である。

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この研究成果は、京都新聞(5月12日朝刊) 、日刊工業新聞(5月14日) 、日経産業新聞(5月17日)、マイナビニュース(5月14日)Yahooニュース(5月14日)に取り上げられました。