三宅 秀明博士研究員、笹森 貴裕准教授、時任 宣博教授「初めての安定なトリホスファ[3]ラジアレンの合成に成功」(2012年2月22日「Angewandte Chemie International Edition」誌にオンライン公開)
平成24年3月 トピックス
三宅 秀明博士研究員、笹森 貴裕准教授、時任 宣博教授
(物質創製化学研究系 有機元素化学研究領域)
笹森 貴裕准教授、三宅 秀明博士研究員、時任 宣博教授(左より)

例えば、ベンゼンは無色の物質であるのに対して、そのリン置換体であるトリホスファベンゼン誘導体は淡黄色を呈することが知られています。しかしながら、[3]ラジアレンのリン置換体はこれまでに全く報告例がありませんでした。そこで今回我々は、[3]ラジアレンの環外原子を全てリン原子に置き換えた化合物、トリホスファ[3]ラジアレンがどのような性質を示すのか興味を持ち、その合成に初めて成功しました。
テトラクロロシクロプロペン1に対して、かさ高いMes*基を有する一級ホスフィンと、塩基としてジイソプロピルアニリンを作用させたところ、三員環に三つのリン原子が結合した化合物2が得られました。化合物2をヨウ素で酸化することで、目的のトリホスファ[3]ラジアレン3が得られました。得られた化合物3は空気や水に対して安定でした。その色は濃い赤紫色であり(λmax = 526 nm (ε = 1.92 × 104))、[3]ラジアレン(無色)やトリホスファベンゼン(淡黄色)とは大きく異なっていました。また、化合物3の還元電位はE1/2 = –1.55 V (vs FcH/FcH+)であったことから、その高い電子受容能が明らかとなりました。理論計算によってトリホスファラジアレンのLUMOレベルが低いことを確かめ、実験事実を裏付けるとともに、その交差共役の効果を解明しました。

共役系化合物は有機エレクトロニクスの担い手であり、より高い機能を目指して世界中で様々な誘導体が合成され続けておりますが、今回我々は、P=C二重結合による交差共役系というユニークな系に踏み込み、その魅力を世界に先駆けて明らかにしました。本研究による知見は、新規な機能分子の設計・開発に寄与するものと期待されます。