山子 茂 教授、岩本 貴寛さんら「シクロパラフェニレンによるフラーレンのサイズ選択的包接」 (2011年7月18日 「Angewandte Chemie International Edition 電子版」に掲載)

平成23年8月 トピックス

山子 茂 教授、岩本 貴寛さんら

(材料機能化学研究系 高分子制御合成研究領域)


山子茂 教授(左)と岩本 貴寛さん(右)

 材料機能化学研究系 高分子制御合成研究領域の 山子 茂 教授、岩本 貴寛さん(博士課程1年)、渡邊 由城さん(元学生、現日本触媒)、貞廣 達也さん(広島大学 元学生)、灰野岳晴 広島大学 教授らの研究グループは、シクロパラフェニレン(CPP)によるフラーレンのサイズ選択的包接を明らかにしました。この錯形成は今後、高次フラーレンやカーボンナノチューブなどの分離、抽出などに繋がると期待されます。

 シクロパラフェニレン(CPP)はアームチェア型カーボンナノチューブ(CNT)の最小構成単位構造を持つ環状共役π分子です。この分子の合成は、半世紀以上も前から多くの研究が行われてきましたが、実際に合成されて化合物を手に取ることができたのはごく最近です。今後、この化合物の基礎化学的性質の解明と共に、材料科学への応用が大いに期待されています。

 一方、多層CNTやフラーレンが単層CNTに包摂された構造を持つフラーレンピーポッドに代表される、凸状と凹状の構造を持つπ共役分子の積層構造からなる高次構造体の存在はこれまでよく知られています。しかし、その構造形成を支配する因子については、必ずしも十分な理解が行われていませんでした。今回、我々は様々な大きさを持つ新しいCPPの合成に基づいて、CPPとC60との相互作用について検討したところ、ベンゼン単位が10個である[10]CPPのみが選択的にC60を包摂することを明らかにしました(図1)。


図1 [10]CPPによる C60のサイズ選択的な包接


図2 構造最適化した [10]CPP⊃C60の構造。a) 側面からみたスティックモデルと、b) 上からみたCPKモデル

 この[10]CPPによるC60の包摂の会合定数は極めて大きく、これが炭化水素のみからなるC60のホストとして最大級の強さを持つことを明らかにしました。さらに、理論化学計算の結果から、[10]CPPがC60を内包するのに適した大きさの空孔を有しており、π―π相互作用を最大化できることがサイズ選択的な包摂の原因であることを明らかにしました(図2)。今後このような錯形成を利用し高次フラーレンやカーボンナノチューブなどの分離、抽出などに繋がる成果であると考えています。

●用語解説●

環状共役π分子:π共役分子のなかで環状の構造を持つ分子。C60、 C70等のフラーレンやカーボンナノチューブが代表的な化合物。

会合定数:可逆的な錯形成反応において、錯形成の強度を示す定数。化学反応における平衡定数と同義。

π―π相互作用:ファンデルワールス力の一種。芳香族化合物のπ電子に由来する誘起双極子同士が相互作用することで生じる安定化効果の作用。