小林 研介准教授、小野 輝男教授、関口 康爾特定助教ら「固体素子を用いた『衝突実験』:近藤効果による電子散乱過程の解明」(2011年4月26日 「Physical Review Letters」誌にオンライン公開)
平成23年5月 トピックス
小林研介准教授、小野輝男教授、関口康爾特定助教
(材料機能化学研究系 ナノスピントロニクス研究領域)
小野輝男教授、小林研介准教授、関口康爾特定助教(写真左より)
小林研介准教授、小野輝男教授、関口康爾特定助教、元大学院生の山内祥晃さん、中村秀司さん、大学院生の知田健作さん、荒川智紀さん(以上、京都大学化学研究所)と、藤井達也助教、阪野塁博士(東京大学)からなる研究グループは、半導体基板上に作製された人工原子を用いて近藤効果を人工的に制御し、高精度の電流揺らぎ測定によって、近藤状態による電子散乱過程を調べました。その結果、近藤状態が発達するにつれ、人工原子に一つの電子が打ち込まれると複数の電子が散乱されるという二粒子散乱過程が増大していく現象の観測に世界で初めて成功しました。
通常、金属の抵抗値は、温度を下げていくとともに減少していきます。しかし、1930年代頃から、微量の磁性不純物が金属内に存在するだけで、低温になると逆に抵抗が上昇するという奇妙な現象が起きることが知られていました。1964年、日本の近藤淳博士が、この現象が電子のスピンが関わる多体効果によることを明らかにしました。今日では「近藤効果(Kondo effect)」と呼ばれるこの現象は、電子のスピンが主要な役割を果たす最も典型的な多体効果の一つであり、以後半世紀にわたって数多くの理論的・実験的研究がなされています。
このような研究は、固体素子上の人工原子に電子を衝突させることによって量子多体状態の内部構造を探るという「衝突実験」であり、近藤効果の研究に新展開をもたらすものと期待されます。
図:半導体基板上の人工原子(黄色で表示)と、測定系の概念図。人工原子内には単一のスピンが保持されており、低温において近藤状態を生じるように設計されている。実験では、この単一スピンによって生成された近藤状態を通過する電流と電流揺らぎ(量子ショット雑音)を同時に測定することによって、近藤状態によって電子がどのように散乱されるかを検出した。図は電子(青色)が近藤状態によって散乱される様子を模式的に示している。
Physical Review Letters 106, 176601 (2011)
URL:http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.106.176601