M. Lutfi Firdaus元助教、南 知晴技術専門職員、則末 和宏助教、宗林 由樹教授ら「海洋循環の新しいトレーサー:レアメタルの南極海−太平洋鉛直断面分布を解明」(2011年3月27日「Nature Geoscience」誌にオンライン公開)

平成23年3月 トピックス

M. Lutfi Firdaus元助教、南知晴技術専門職員、則末和宏助教、宗林由樹教授ら

(環境物質化学研究系 水圏環境解析化学研究領域・微量元素断層診断研究領域)

M. Lutfi Firdaus元助教、南知晴技官、則末和宏助教、宗林由樹教授らの研究グループは、微量元素の新しい分析法を開発し、海洋の水塊の循環を知るためのトレーサーとして有用な元素を見いだしました。


宗林由樹教授、M. Lutfi Firdaus元助教、則末和宏助教(写真左より)

 水塊の循環を知ることは、海洋および地球の気候システムを理解する上で重要です。水温と塩分が水塊を特徴付けますが、それはしばしば不十分です。可能性のあるトレーサーが、微量元素とその同位体に求められてきました。候補のひとつは、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などの強配位子場元素(high field strength elements, HFSEs)です。これらは、+4または+5の酸化数をとり、Zr(OH)5 や Nb(OH)5 などの水酸化物錯体を生成するため海水に溶けにくいのです。従来これらの元素は分析が困難でしたが、我々は新しい分析法を開発し、それを用いて溶存態HFSEsの南極海-太平洋における鉛直断面分布をあきらかにしました。

図1 溶存態ジルコニウム,ハフニウム,ニオブ,タンタルの南極海-太平洋鉛直断面分布

 西経170度(65°S~10°N)および西経160度(10°S~50°N)に沿った鉛直断面において、HFSEsは一般に表層で濃度が低く、深層では南極海から北太平洋に向かって濃度が増加しました(図1)。これらの分布は、これら元素の収支には海底熱水活動による供給よりも陸源物質の寄与が重要であることを示しています。太平洋海水中の重量比は、Zr/Hf比では45~350、Nb/Ta比では14~85でした。これらの値は、淡水、マントル、地殻、コンドライト隕石などの値に比べて高く、かつおおきく変動します。我々は、海洋におけるZr/Hf比およびNb/Ta比が、特徴的な分別を示し、水塊のトレーサーとして有用であることを見出しました。