時田 茂樹助教、橋田 昌樹准教授、阪部 周二教授ら「レーザー加速電子を用いた単一ショットフェムト秒電子線回折のための電子線パルス圧縮の実証」(10/11/17「Physical Review Letters」誌にて発表)

平成23年1月 トピックス

時田茂樹助教、橋田昌樹准教授、阪部周二教授ら

(附属先端ビームナノ科学センター レーザー物質科学)


阪部周二教授(中央)、時田茂樹助教(右)、橋田昌樹准教授(左)

(2010年11月17日「Physical Review Letters」誌にて発表)

レーザー物質科学研究領域(阪部周二教授)では、高強度短パルスレーザーと物質との相互作用とその応用に関する研究に取り組んでいます。高強度レーザー生成プラズマ放射線(電子線、X線、イオン線、テラヘルツ波など)は短パルス、点源、高輝度、異種放射線間の完全同期などの特徴を有しており次世代の新しい放射線源としての可能性を秘めています。我々は当研究領域発足時よりレーザー生成電子線に注目して、物質科学分野への貢献を目標に、超高速時間分解電子線回折(Ultrafast Electron Diffraction: UED)の実証研究を行ってきました。

(a)超高強度短パルスレーザー生成プラズマ電子を 500 fs に圧縮し、この電子パルスにより撮像した金の単結晶薄膜の電子線回折像、電子パルス幅測定法として電子ビームと超短パルスレーザーとの相互作用相関測定法も実証した。(b)電子ビームの一部がレーザーの光圧により散乱され線上に除去されている様子が見られる。(c)レーザービームと直交する方向に散乱している電子が観察された。

 固体の相転移、化学反応の動的パスウェイ、生物学的な機能過程など様々な物質内現象は究極的には単一原子の運動により決まります。このような構造的な動力学を単一原子運動の時間尺度で直接観察できるパルス電子線によるUEDを確立することができれば、物質科学に大きく貢献できます。これを具現するためには高い強度の短パルスの電子線が必要不可欠です。今日まで世界で行われている方法では、短パルスレーザーをフォトカソードに照射し光電子を発して線源としています。しかし、この方法では回折に必要なエネルギーの数 100 keV にまで加速する間に空間電荷効果(パルス内部での電子間のクーロン斥力)によりパルス幅が大きく広がってしまい、それを避けるためには結局のところパルス中の電子数を減じ、非常に多くのパルスを観察試料に重ね照射することにより回折像を撮像しています。そのため、観察可能な対象現象は可逆的な(100~1000 パルス を照射する毎に同じ現象が起こる)ものに限定されていました。

 我々の目的は単一パルスによる電子線回折像の撮像を実現し、UEDを実証することです。本目的のために超高強度極短パルスレーザー生成プラズマ中で加速される高輝度短パルス高エネルギー電子を利用することを提案し、実験研究を行なっています。超高強度レーザーを薄膜などの標的に照射すると、生成薄膜プラズマ中の電子が高強光場により瞬時に 100 keV~1 MeV にまで加速されます。よって付加的な加速器を一切必要としません。発生電子には運動量の広がりがあるので試料到達までにはパルス幅は広がっていくのですが、この運動量広がりを利用して、線源と観察試料の中間点で位相反転させることにより、試料上でパルスが元に再圧縮されます。これらの手法を世界で初めて実験的に実証しました。実際に、金の単結晶薄膜の回折像を単一のパルスで撮像し、パルス幅も 500 fs を実現しました。

 本研究は電子顕微鏡の専門家集団である先端ビームナノ科学センターの複合ナノ解析化学研究領域(磯田正二名誉教授、倉田博基准教授ら)から助言・議論を頂いて行ったもので、ここに感謝いたします。
高強度レーザープラズマ研究と先進電子顕微鏡開発ポテンシャルを連携、融合し、高強度光生成電子を駆使した超高速時間分解電子顕微鏡実用化の基盤の形成を目指しています。

●用語解説●

超高強度短パルスレーザー:一般には、パルス幅が数 100 fs 以下、尖頭パワーが TW(テラワット)以上のレーザー装置を呼ぶ。

レーザー生成プラズマ:高強度レーザーにより固体中の原子をイオン化し、プラズマ状態にしたもの。このようなプラズマ中で、 レーザーの極めて強い光の場により電子が高エネルギーに瞬時に加速される。真空ではなくプラズマの中で加速されるので、従来の加速器のような高い真空度を必要としない.