山子茂 教授、渡邊由城 研究員、岩本貴裕 研究員ら「環状π共益分子の新しい合成法の開発に成功」(2010年1月18日「Angewandte Chemie International Edition」誌にて発表)

平成22年3月 トピックス

山子 茂 教授、渡邊由城研究員、岩本貴寛研究員ら

(材料機能化学研究系 高分子制御合成研究領域)


山子 茂 教授(左)と渡邊 研究員(中央)、岩本 研究員(右)

(2010年1月18日 Angewandte Chemie Ineternational Edition誌 で発表)

 化学研究所の山子 茂 教授、大学院生の岩本貴寛さん、渡邊由城さんの研究グループは、ベンゼン環8個を環状につなげることに初めて成功しました。光を吸収し、蛍光色に発光することから新材料への応用が期待されています。

 シクロパラフェニレンはベンゼン環が環状につながったπ共役分子です。この構造は、カーボンナノチューブの最小構成単位に相当する分子でもあることから、基礎化学のみならず材料科学などの応用分野からも興味を集めている分子です。しかし、そのシンプルな構造にもかかわらず環状構造を形成することが難しいため、これまでその有効な合成法がありませんでした。

図1
単層カーボンナノチューブの構造とシクロパラフェニレン構造(緑色で示されている)

 我々は、シクロパラフェニレン構成ユニットを一辺とし、頂点に白金を持つ四角形構造を持つ白金四核錯体(四個の白金を持つ有機金属錯体)を鍵中間体とし、そこから炭素ー炭素結合を作りながら白金を除去することで、シクロパラフェニレンが合成できる可能性を考えました。そこで、ベンゼン環を二つ持つビフェニルに有機スズ置換基を二つ持つ化合物と、二価の白金錯体とを1:1で混合したところ、57%の収率で望みの白金四核錯体が得られました。そこに、臭素を加えて加熱することで、ベンゼン環が8個つながった[8]シクロパラフェニレンが45%の収率で初めて合成することに成功しました。この化合物は74 kcal/molと大きな歪エネルギーを持つのですが、3段階で25%と非常に高い収率で合成できました(現在はもう少し収率があがっています)。この化合物に光を当てると、黄緑色の蛍光を示すこともわかりました。光材料、電子材料としても興味深いものであると考えています。

図2
[8]シクロパラフェニレンの合成

●用語解説●

π共役分子:二重結合と単結合とが交互に並んだ構造を持つ分子。導電性ポリマーに見られる基本的な構造である。

歪エネルギー:分子の結合角や結合長が理想的な状態からずれることにより分子に生じる不安定化エネルギー