島川祐一 教授、市川能也 助教ら「固体酸化物における低温での酸素イオン拡散の解明~低温動作可能な固体酸化物燃料電池開発へ向けた新知見~」(2010年2月8日 英国科学誌「Nature Chemistry(電子版)」で発表)

平成22年2月 トピックス

島川祐一教授、市川能也助教ら

(元素科学国際研究センター 無機先端機能化学研究領域)

(2010年2月8日 「Nature Chemistry(電子版)」で発表)

 附属元素科学国際研究センター、無機先端機能化学研究領域の井上暁さん(修士卒業)、河合正徳さん(博士課程3年)、市川能也助教、島川祐一教授らの研究グループは、ペロブスカイト構造酸化物エピタキシャル単結晶薄膜を用いて還元反応を研究する過程で、固体酸化物中での酸素イオンの拡散が300℃以下で異方的に起こることを発見しました。

 燃料電池はクリーンなエネルギー源として大きな期待を寄せられています。特に固体燃料電池は、電池内に液体を一切に使わないなどの利点もあり注目を集めています。しかしながら、鍵となる固体電解質におけるイオン伝導が通常は700 °C以上の高温でしか起こらないため、広範な実用化のためにはより低温でのイオン伝導材料を開発することが必要でした。

 今回の実験ではパルスレーザー蒸着法という薄膜成長技術を用いて、結晶方位を制御して成長させたブラウンミレライト構造酸化物CaFeO2.5エピタキシャル単結晶薄膜を用いました。この薄膜をCaH2というアルカリハライドを用いて還元すると300 °Cでの低温においても反応が進行し、無限層構造CaFeO2に変化します。


図1:低温還元によるCaFeO2.5からCaFeO2への構造変化


図2:ペロブスカイト構造での酸素イオンの動き

 この還元反応は、図1に示すような異なる結晶方位で成長したCaFeO2.5であってもともに同じ方位のCaFeO2に変化するように起こります。また、還元反応に必要な時間が異なっていることも明らかになりました。これらの結果は、還元過程での低温での酸素イオンの拡散が異なる二つの結晶方位に沿って起こること(図2)、さらにその拡散の活性化エネルギーが方位によって異なることを示しています。

 このようにエピタキシャル単結晶薄膜を用いることで、はじめて原子レベルでの酸素イオンの動きが議論できるようになりました。また、今回の実験結果は、ブラウンミレライト構造酸化物が、低温で酸化物イオン伝導体として機能することを示しており、今後の低温動作固体酸化物燃料電池の電解質などの開発に繋がる重要な基礎データです。


図3:燃料電池の概念図

 なお本研究は、京都大学大学院工学研究科・陰山 洋 教授、フランス レンヌ第一大学(部局間交流協定締結)・Werner Paulus 教授らとの共同研究によるものであり、研究の一部は日本学術振興会二国間交流事業共同研究: フランス(CNRS)との共同研究「遷移金属酸化物の構造・酸素量・イオン状態の制御とその機能探求」の支援を受けて行われたものです。

・この成果はNature Chemistry電子版(2月8日公開)に掲載されました。また関連記事が京都新聞(8日夕刊)、産経新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞(9日)に掲載されたほか、Yahooニュースのトピックスにも取り上げられました。

●用語解説●

ぺロブスカイト構造、ブラウンミレライト構造:ペロブスカイト、及びブラウンミレライトは鉱物名。鉄(Fe)などの遷移金属が酸化物となる時にしばしば安定に得られる結晶構造。遷移金属イオンを酸素イオンが八面体を構成するように配位したものがその基本骨格となっている。

エピタキシャル単結晶薄膜: 単結晶は試料全体が一つの結晶からなっているものを言う。薄膜材料を基板の上に成長させるときに、基板結晶の方位と成長させる薄膜結晶の方位関係が揃っている場合にエピタキシャルであるという。

燃料電池:酸素と水素が反応して水が発生する時の化学エネルギーを電気エネルギーとしてとりだすことができる電池(図3)。電極の間でイオンが動く物質を電解質と呼ぶが、固体電解質では、固体中をイオンが通過する。