栗原 達夫准教授、川本 純特任研究員、三原 久明助教、江崎 信芳教授ら「長鎖多価 不飽和脂肪酸エイコサペンタエン酸の生理機能」(09/1月発表)

平成20年12月 トピックス

栗原 達夫准教授、川本 純特任研究員、三原 久明助教、江崎 信芳教授ら
(環境物質化学研究系 分子微生物科学)


(左より) 三原久明 助教、栗原達夫 准教授
江崎信芳 教授、川本 純 特任研究員

(2009年1月「Journal of Bacteriology 」にて発表)

 分子微生物科学研究領域の栗原達夫准教授、川本純特任研究員、三原久明助教、江崎信芳教授らの研究グループは、エイコサペンタエン酸(EPA)を生体膜成分として含有する海洋性細菌を用いた研究により、EPAの新しい生理機能を見いだすことに成功しました。


図1:EPA 欠損による細胞分裂阻害
DAPI:DNA 染色試薬、FM4-64:膜染色試薬

エイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) などの長鎖多価不飽和脂肪酸は健康食品として近年大きな注目を集めています。これらを含む青背の魚の摂取が奨励されたり、種々のサプリメントが開発されています。長鎖多価不飽和脂肪酸は生体膜を構成するリン脂質の成分として存在し、動物だけでなく、種々の微生物においても重要な役割を担っています。栗原准教授、川本特任研究員(京都大学生存基盤科学研究ユニット助教)、三原助教、江崎教授らは EPA を生体膜成分として含有する海洋性細菌を用いて研究を進め、EPA の新しい生理機能を見いだしました。研究に用いられた細菌は南極海水から分離されたもので、低温環境下で良好に生育します。栗原准教授らは、まず本菌において EPA の生合成を担う遺伝子群を同定し、これらを破壊することで EPA を合成できない変異株を取得しました。得られた EPA 欠損株は、本菌にとって比較的高い温度である 18℃においては野生株と同様に生育しましたが、4℃においては生育が著しく阻害されていました。

 このことから EPA が本菌の低温での生育において重要な役割を担うことが明らかになりました。さらに詳しく調べた結果、EPA 欠損株では細胞分裂が阻害されることや(図 1)、細胞の中に異常な膜系が形成されることが明らかになりました(図 2)。EPA 含有リン脂質は生体膜の流動性保持に重要であると言われていますが、ピレンという蛍光物質を用いて測定した流動性については、EPA 欠損株と野生株で顕著な差が見られませんでした。本菌の細胞膜全体の流動性に関しては、EPA 以外の高濃度で存在する不飽和脂肪酸を含有するリン脂質などの寄与が大きく、全脂肪酸に占める割合が 5% に過ぎない EPA の寄与は小さいものと考えられました。一方、膜タンパク質の組成を解析した結果、EPA の欠損によって特異的に量が変動するタンパク質が見いだされました。また、特定の膜タンパク質を強制的に高生産することによって、EPA 欠損株の生育が回復することも見いだしました。これらの結果は、生体膜に含まれる EPA 含有リン脂質が特定の膜タンパク質の機能発現において重要な役割を担うことを示しており、それらの間に特異的な相互作用のあることが強く示唆されます。一連の研究成果は EPA の新しい生理機能を示したものとして注目されます。


図2:EPA 欠損による細胞内の膜形成

・以上の研究は、京都大学低温物質科学研究センター佐藤智准教授、茨城県立医療大学馬場健教授らと共同で行われたもので、成果の一部は Journal of Bacteriology の 2009 年第 191 巻第 2 号で公表されました。

●用語解説●

長鎖多価不飽和脂肪酸:
炭素鎖長が 20 以上で、分子内に 2 つ以上の炭素-炭素二重結合を含む脂肪酸。炭素鎖長が 20 で 5 つの二重結合を含む EPA や、炭素鎖長が 22 で 6 つの二重結合を含む DHA が代表的。(本文に戻る)

リン脂質:
生体膜の主要な構成成分。グリセロール 3-リン酸を基本骨格としてもつものが多く、その水酸基に脂肪酸由来のアシル鎖が結合し、リン酸基には極性化合物が結合している。(本文に戻る)