島川 祐一教授ら 「無限層構造鉄酸化物SrFeO2単結晶薄膜」作成に成功!(08/9/2日発表)

平成20年10月 トピックス

島川 祐一教授ら
(物質創製化学研究系 精密無機合成化学)


島川祐一教授(左)、井上暁さん(中央)、河合正徳さん(右)

(2008年9月2日、応用物理学会にて発表)

 精密無機合成化学研究領域の井上暁(修士課程2年)、河合正徳(博士後期課程2年)、島川祐一教授らの研究グループは、珍しい酸素平面4配位構造の鉄をもつ、「無限層構造鉄酸化物SrFeO2単結晶薄膜」の作成に世界に先駆けて成功しました。


図1:SrFeO2.5とSrFeO2の結晶構造

 鉄(Fe)やコバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの遷移金属イオンは、多くの酸化物を作りますが、その酸素量に応じてイオン状態が変化します。鉄を例にとれば、磁鉄鉱と呼ばれるマグネタイト(Fe3O4)はFe2+Fe3+2O2-4と表わされるようにFe2+とFe3+のイオンを含みますが、ヘマタイトと呼ばれる赤色顔料Fe2O3ではFe3+2O2-3とFe3+イオンのみを含んでいます。ストロンチウム(Sr)と鉄を含むペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造をとる酸化物では、長い間Fe4+を含んだSrFeO3からFe3+を含むSrFeO2.5までの化合物しか合成できないと考えられてきました。ところが、昨年秋に、京都大学理学研究科の研究グループが世界で初めてFe2+が平面4配位構造をとるSrFeO2を低温還元法で作成することに成功しました。

 この発見に引き続き、井上君、河合君らは、この珍しい「無限層構造鉄酸化物SrFeO2」を単結晶薄膜で作ることに世界に先駆けて成功しました。パルスレーザー蒸着法と呼ばれる薄膜合成法で、前駆体であるSrFeO2.5単結晶薄膜を作成した後、これを低温で還元処理をすることで、単結晶のSrFeO2 薄膜を得ました。X線回折などの結晶構造解析と放射光実験施設(SPring-8)でのX線吸収スペクトルによる化学シフトの実験から、得られた薄膜が高品質な単結晶薄膜であることが確認されました。


図2:SrFeO2.5とSrFeO2のX線回折

 単結晶薄膜では結晶の方位がすべて揃っているため、この特殊な結晶構造の中で、酸素がどのように移動していくのかを調べることができるようになります。このような低温での酸素の移動は、将来の燃料電池などへの応用に重要な基礎情報を与えると期待されています。また、結晶の大きな異方性は、磁気的特性や電気伝導性などにも大きな異方性をもたらすと考えられ、電子状態を含めた基礎物性の解明には単結晶薄膜を用いた研究が重要になってきます。さらに、薄膜を堆積させる基板材料との格子整合性を制御することで、無限層構造材料の特性を変化させることが可能となるかもしれません。今回の単結晶薄膜作製の成功は、このような固体化学、固体物理の研究を進める上での重要性にとどまらず、新しい機能をもった新物質を作成する手法としても注目されています。

 この研究は、京都大学理学研究科の陰山准教授、吉村教授の研究グループと高輝度光科学研究センターの水牧研究員らとの共同研究によるものであり、最近の成果はApplied Physics Letters紙に掲載されたほか、物理学会、応用物理学会で発表されました。

●用語解説●

パルスレーザー蒸着法:
パルス状の高エネルギーレーザーをターゲット物質に照射することで、昇華する物質を基板上に堆積させて薄膜を作成する手法。原子レベルの薄膜成長が制御できる。(本文に戻る)

放射光実験施設(SPring-8):
西播磨にある高輝度光科学研究センター。高強度の放射光X線を使った実験装置により、高精度かつ高分解能な物質評価ができる。(本文に戻る)