野田章教授、白井 敏之助教ら「蓄積リングにおける陽子ビームの 1次元オーダリング」(07/05/16発表)

平成19年10月 トピックス

野田章教授、白井敏之助教、池上将弘博士研究員、頓宮拓技術専門職員、田邉幹夫(D3)、想田光(D2)、石川丈寛(M2)ら
放射線医学総合研究所(野田耕司グループリーダー)、マックスプランク原子核研究所(ドイツ:ハイデルベルグ)(Dr. Manfred Grieser)、連合原子核研究所(ロシア:ドゥブナ)(Prof. Igor Meshkov, Dr. Alexander Smirnov)との共同研究で

頓宮拓技術専門職員(後列左)・田邉幹夫さん(D3)(後列右)
池上将弘博士研究員(中列左)・石川丈寛さん(M2)(中列中)
白井敏之助教(中列右)
野田章教授(前列左)・想田光さん(D2)(前列右)

(平成19年5月16日「Physical Review Letters」98巻に発表)


図1 1次元相転移を予言するシミュレーション結果

 加速器中のビームは通常は気体のガス状態にあり、構成する個々の粒子はランダムに運動していますが、蓄積リング中を周回しているビームの温度を何らかの方法で冷やしていくと相転移が起こり、液相を経て固相に相転移し、秩序化した状態になると期待されます。実際に計算機を用いたシミュレーションにより、ビームの粒子数を一定の量まで減少させると図1に示されるように運動量の拡がりが急速に減少することが予想されていました。

 ビームの温度を下げる「冷却」法としては、電子ビーム冷却法、確率冷却法、レーザー冷却法等が知られていますが、今回我々は図2(a)に示したようにリングの一辺で極めて低温の電子ビーム(図2(b)に示した装置で供給される)をイオンビームと併走させ、イオンビームの熱エネルギーを低温の電子ビームで奪い去る「電子ビーム冷却法」を化学研究所のイオン線形加速器実験棟に2005年10月に完成したイオン蓄積・冷却リングS-LSRに於いて適用し、7MeV陽子ビームの温度を低温にまで冷却し、陽子ビーム数を2000個以下に減少させた条件では、粒子間相互作用が抑制され、陽子ビームの運動量の拡がりが図3に示したように急激に減少し、陽子ビーム間でもはや追い越しが行われず一次元の紐状に並んでいるオーダリング状態を作り出すことに成功しました。


図2(a) 電子ビーム冷却の原理


図2(b) S-LSRに設置された電子ビーム冷却装置


図3 S-LSRで観測された陽子ビームの1次元オーダリングを示すデータ

 イオンビームの1次元オーダリングは、荷電数が大でイオンと電子の間に作用するクーロン力が強いため、大きな電子ビーム冷却力が作用するウランやキセノンのような重イオンについては、ドイツの重イオン研究所(Gesellschaft fuer Schwerionenforschung;GSI)やスウェーデンのストックホルム大学のManne Siegbahn Laboratoryで実現が報告されていましたが、荷電数が1と最低で冷却力が小さい陽子ビームに関しては、世界の各地で試みられてきましたがいまだ実現していませんでした。

 今回我々は、設計に際して、イオンの結晶化を意図し、リングの対称性を6と高く設定する等、特別の配慮を施したイオン蓄積・冷却リングS-LSRでこうした試みに挑戦し、世界的にも始めて陽子ビームの1次元相転移の実現に成功しました。この研究成果は平成19年5月16日刊行のPhysical Review Letters誌98巻(Physical Review Letters, Vol. 98, 204801)に発表されました。この成功を受けて、現在更に冷却力の大きなレーザー冷却により、3次元のビームの結晶化に向けた実験に取り組んでいます。こうした成果は世界的にも注目を集め、最近ドイツFrankfurt近郊のBad Kreuznachで開催された国際ワークショップCOOL07(http://cool07.gsi.de/)で2件の招待講演を行いました。