石渡博士研究員、齊藤助教、高野名誉教授ら「コバルト酸化物における多段磁気抵抗効果の発見」(07/5/25発表)

平成19年5月25日

石渡晋太郎博士研究員、齊藤 高志助教、高野 幹夫名誉教授ら

 無機先端機能化学研究領域の石渡晋太郎博士研究員、齊藤高志助教、高野幹夫教授は、寺崎一郎教授(早大理工)、石井史之研究員(JST-ERATO)、永長直人教授(東大工)、椋田秀和准教授(阪大基礎工)、北岡良雄教授(阪大基礎工)らとの共同研究で、新しいコバルト酸化物SrCo6O11が一軸性の巨大な二段磁気抵抗効果を示すことを発見しました。


石渡博士研究員(左)、齊藤助教(中)、高野幹夫名誉教授(右)

強磁性的な金属は、スピンに依存したバンド構造をもつため、磁場で電気抵抗を変化させることができます(磁気抵抗効果)。一般的に、この変化はあまり大きくないのですが、強磁性層が常磁性層を介して反強磁性的にカップルした図1のような多層膜において、負の巨大磁気抵抗(GMR)効果が発見されて以来、スピンを利用した新しい電子材料の研究開発が盛んに行われてきました。


図1:多層膜における巨大磁気抵抗効果のイメージ

現在、このGMR効果の原理は、ハードディスクの磁気ヘッド材料として実用化されています。一方、マンガン酸化物などの(多層膜ではない)バルクの試料においてもGMR効果が見つかっており、秩序の競合によるミクロスコピックな電子相分離といった新しい物理概念が生まれつつあります。ただし、どちらも基本的に反強磁性↑↓(高抵抗)→強磁性↑↑(低抵抗)という二段階の抵抗のスイッチングであるという点では、よく似た現象だと言えます。

 今回石渡らが発見した現象は、新規コバルト酸化物SrCo6O11に対して磁場を特定の方位にかけると電気抵抗が階段状に減少する、という新しいタイプのGMR効果です(図2)。SrCo6O11の単結晶は、2GPaの高圧力下で初めて合成されました。多層膜におけるGMRは、磁場によって人工的な磁気ドメインの向きを反転させることで制御されますが、SrCo6O11のそれは磁場誘起の逐次相転移であり、動作メカニズムが本質的に異なっています。最も注目すべきところは、磁場に対して特異な振る舞いを示す局在スピン系がスピン偏極した伝導電子とうまくカップルしているという点です。つまり、特定の方向(c軸)に磁場をかけた場合にのみ(一軸性)、いくつかの磁気秩序相を経て最も抵抗の低い強磁性状態にたどり着く(多段磁気抵抗)というわけです(図3)。このようにSrCo6O11では、強い一軸異方性や拮抗した複数の磁気秩序などの、スピン系のもつ豊かな個性が電子伝導にそのまま反映されており、スピン自由度が原子層レベルで制御されたまったく新しい磁気抵抗材料が発見されたと言えます。


図2:SrCo6O11における(a)1/3磁化プラトーと
(b)一軸性二段磁気抵抗効果


図3:SrCo6O11における一軸性二段磁気抵抗効果の
イメージ

 本研究成果は、平成19年5月25日付けの米国科学誌「Physical Review Letters」に発表されました(Phys. Rev. Lett. 98, 217201 (2007))。

※平成19年6月8日付の日経産業新聞に関連記事が掲載されました