結晶中の溶媒脱離によって有機半導体の新たな分子配列を形成 ―隣り合う層が90度交差する長周期構造と高い電荷移動度―

公開日:2026年10月7日
本研究成果は、2026年9月27日に、国際学術誌「Advanced Science」に掲載されました。 

 京都大学化学研究所 宮﨑和哉 博士後期課程学生、山本恵太郎 助教、山内光陽 助教、水畑吉行 准教授、山田容子 教授の研究グループは、同研究所 松田大 博士、塩谷暢貴 助教、長谷川健 教授との共同研究成果として、有機半導体である 5,15-ビスフェニルテトラベンゾポルフィリン (Ph-BP) の結晶中に取り込まれた溶媒を真空加熱により取り除くことで、これまで確認されていなかった長周期の結晶構造を形成しました。この結晶では、隣り合う層で分子の積み重なり方向が 90 度直交しており、二つの異なる分子配列が交互に繰り返されます。また、この溶媒脱離による構造変換を Si/SiO2 基板上の結晶でも実現し、単結晶有機電界効果トランジスタ (SC-OFET)を作製しました。得られた素子の平均正孔移動度は 3.5 ± 1.2 cm2 V–1 s–1 で、同じ分子の既報の結晶形 (Ph-BP Form I) を用いた素子の平均値 0.73 ± 0.28 cm2 V–1 s–1 を上回りました。
 有機半導体の性能は、分子そのものの性質に加えて、結晶の中で分子がどのように並ぶかに大きく影響されます。一方、溶液からゆっくりと結晶を成長させるなど、平衡に近い条件での結晶化では、エネルギー的に安定な構造が形成されやすくなります。そのため、同じ分子であっても、より優れた半導体特性を示す可能性のある別の結晶構造を、意図的に形成することは容易ではありません。理論計算から、新たに得られた結晶形 (Ph-BP Form II) は既報の結晶形よりも高い格子エネルギーをもつことが分かり、溶媒脱離が通常の結晶化では得にくい構造を形成する手段となることが示唆されました。また、分子に導入したフェニル基をペンタフルオロフェニル基に変更した類縁体との比較から、層間の置換基同士の相互作用が溶媒脱離後の分子配列に影響を与えることを明らかにしました。さらに、結晶の異なる方向に沿った SC-OFET 特性の測定と理論計算により、結晶面内の複数方向に電荷輸送経路が存在することが示されました。
 本研究は、溶媒の脱離に伴う結晶構造変換を利用することで、有機半導体の性能を引き出す新たなアプローチを示すものです。

 

Si/SiO2上でのPh-BPの溶媒脱離に伴う長周期結晶構造の形成. ©京都大学/宮﨑和哉
 

●用語解説●

有機半導体:炭素を中心とする有機化合物からなる半導体。材料の分子設計によって、軽量で柔軟な素子や、溶媒に溶かして印刷技術で作製する素子を実現できることから、曲げられる電子デバイスや印刷で電子回路を形成するプリンテッドエレクトロニクスへの応用が期待されています。

 

単結晶有機電界効果トランジスタ (SC-OFET):電荷輸送層に有機半導体の単結晶を用い、ゲート電極に加える電圧によって、ソース電極とドレイン電極の間を流れる電流を制御する素子。単結晶では分子が規則正しく並び、結晶粒同士の境界がないため電荷輸送の妨げを受けにくく、材料本来の電気的な性質を評価するのに適しています。

 

平均正孔移動度:半導体中で正の電荷を運ぶ正孔が電場によってどれだけ移動しやすいかを表す指標。単位は cm2 V–1 s–1 で、値が大きいほど同じ電場の下で正孔が速く移動できることを意味します。有機半導体では、分子の構造や配列によって大きく変化する物性であり、OFET の性能を評価する重要な指標の一つです。

 

格子エネルギー:結晶を構成する原子や分子の間に働く相互作用に由来する凝集エネルギー。結晶構造の安定性を評価する指標の一つで、原子や分子の並び方によって変化します。

 

 
研究者のコメント
「今回の研究は筆頭著者の宮﨑君が、従来の想定を超える結晶構造の変化を発見したことから始まりました。また、共同研究者の先生方のご協力により、この興味深い現象への理解を深めることができました。さらに、宮﨑君の精密なSC-OFET作製技術によって、新たな結晶構造がもたらす高い半導体性能を実証することができました。分子の並び方を変えることで材料の可能性を引き出せる点に、本研究の面白さを感じています。」(山本 恵太郎)

 
 
研究領域情報
有機元素化学