海水中のRNAからプランクトンの死滅を明らかに ―海洋プランクトンの見えざる死を捉える新手法―

公開日:2026年9月10日
本研究は、2026年9月9日に国際学術誌「MicrobiologyOpen」に掲載されました。 

 京都大学理学研究科 菊矢咲季 修士課程学生(研究当時)、同化学研究所 遠藤寿 准教授、水産研究・教育機構水産技術研究所 外丸裕司 グループ長、高知大学農林海洋学部 長崎慶三 教授らの研究グループは、分子マーカーを用いてプランクトンの細胞溶解を計測する新たな手法を開発しました。
 植物プランクトンは地球上の光合成の約半分を担い、動物プランクトン等との相互作用を介して海の物質循環を駆動しています。プランクトンが合成した有機物の行方を知るためには、彼ら死滅に関する情報が欠かせません。ところが、自然界でどのプランクトンがどの程度死滅しているかはよく分かっていません。本研究では、ウイルス感染等によって破壊されたプランクトン細胞からrRNAが海水中へ放出されることに着目しました。2種の植物プランクトン(珪藻、ラフィド藻)を用いたウイルス感染実験を行い、細胞溶解によって新たに生産された細胞外rRNAを速度論的に定量化しました。その結果、ウイルス感染によって細胞外rRNAの生産速度は最大46倍および302倍に増加し、同分子が細胞溶解のマーカーとして優れていることが実証されました。また、見かけ上は増殖している時期でも、実際には活発な細胞溶解が同時に進行していることを明らかにしました。
 本研究成果は、水圏環境におけるプランクトンの溶解死滅を系統群ごとに推定する手法として、炭素循環や生態系の理解に貢献することが期待されます。

 

図: 本研究の概略図(イラストは遠藤寿の図案を元にChatGPT-5.5で作成)
 

●用語解説●

プランクトン:右自泳能力が乏しく、水中に漂って生活する生物の総称。ここでは、主に単細胞の微視的な浮遊生物を指す。光合成を行う植物プランクトンと、他の生物から資源やエネルギーを得る動物プランクトンとに大別される。本研究では、植物プランクトンに分類される珪藻 Chaetoceros tenuissimus、およびラフィド藻Heterosigma akashiwoの培養株を使用した。

 
研究者のコメント
「本研究では、これまで定量的に捉えることが難しかった海洋プランクトンの溶解死滅に着目し、その実態を明らかにするための新たな手法の構築に取り組みました。細胞外rRNAを指標とした本手法の開発にあたり、ご支援いただきました皆様に心より感謝申し上げます。本研究が、今後の海洋生態系や物質循環の理解を深める一助となれば幸いです。」(菊矢咲季)

 

「海水中に存在する多種多様なウイルスを知って以来、彼らの生態系における影響力を知りたいと考えてきました。本研究を足がかりに、プランクトン生態系の実像を明らかにしていきたいと思います。」(遠藤寿)

 
 
研究領域情報
化学生命科学