電子顕微鏡による元素分析の常識を覆す ―従来の限界超え原子レベル元素分析を実証―

公開日:2026年7月29日
本研究成果は、2026年7月28日に国際学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。 

 京都大学化学研究所 吴佳亿 博士後期課程学生、治田充貴 准教授らの研究グループは、ドイツ・ユーリッヒ研究センターのJuri Barthel 博士、オーストラリア・メルボルン大学のLeslie J. Allen 教授らと共同で、電子顕微鏡による元素分析で、これまで困難と考えられてきた低エネルギー領域での原子レベルの元素分析を実証しました。電子エネルギー損失分光法(EELS)は、電子顕微鏡で元素や電子状態を調べる手法ですが、軽い元素で利用される低エネルギー信号では、電子と原子の相互作用が広い範囲に及ぶため、隣り合う原子を見分けることは難しいと考えられてきました。本研究では、計測対象の原子と相互作用することでエネルギーを失い散乱した電子のうち特定の方向へ飛んだ電子だけを選んで検出する新しい測定法を用いることで、この制約を克服し、100電子ボルトという低エネルギー領域でも従来法の約5倍高い空間分解能でシリコン原子を識別できることを示しました。さらに理論計算により、この性能向上が電子の検出方法に由来することを明らかにしました。本成果は、電子顕微鏡による元素分析の従来の考え方を見直す成果であり、軽元素や半導体材料の高精度電子状態解析への応用が期待されます。

 

 
従来法と新手法によるSi単結晶の元素マップ像
作成:Jiayi Wu/複合ナノ解析化学
 

●用語解説●

電子エネルギー損失分光法(EELS):入射電子が試料原子の電子を励起することによる非弾性散乱電子を分光し、その損失エネルギーから元素や電子状態を解析する分光法

 
研究者のコメント
「低エネルギーでは原子分解能は得られない」という考え方は、長年当然のように受け入れられてきました。本研究では、その原因が電子励起だけでなく検出方法にもあることを示すとともに、信号が大幅に減少するという課題を、多重計測法を組み合わせることで克服しました。既存の常識を見直すことで、新しい計測法や材料解析へと発展していくことを期待しています。(治田充貴)
 
 
研究領域情報
複合ナノ解析化学