量子ビットを超えて ダイヤモンド量子センサーで暗黒物質探索を高精度化

公開日:2026年7月9日
本研究成果は、2026年6月に国際学術誌「Physical Review A」誌のLetterに掲載されました。 

 いまだ正体が明らかになっていない暗黒物質(ダークマター)の観測のために、量子センサーが注目されています。特に、ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心を利用したダイヤモンド量子センサーは、暗黒物質候補であるアクシオンなどの軽い粒子が生み出す微弱な信号を検出する手法として有望ですが、これまでの検出手法ではNV中心の量子力学的な特徴は十分に活用されていませんでした。
 本研究では、ダイヤモンドNV中心のスピン三重項状態の三つの量子準位を「量子三準位系(qutrit)」として活用することで、従来法を上回る測定精度が得られることが明らかになりました。この手法をアクシオン暗黒物質探索に適用すれば、測定精度を高めることができ、アクシオンと電子の相互作用に対する感度が最大で約10倍向上する可能性を示しました。
 これにより、高次元量子センサーを用いた極めて微弱な基礎物理信号の探索に、新たな道が切り拓かれます。

 

 

図1:
左図:
量子三準位系(qutrit)を用いた暗黒物質センシングの概念図。波のように振動する暗黒物質場がスピン1の量子三準位系に結合し、三つの準位間の遷移を誘起する。これにより、量子ビット構成よりも速く位相を蓄積する量子重ね合わせ状態が実現される。
右図: Hahnエコー(交流信号検出)シーケンスを用いた場合の、アクシオン電子結合定数(gaee)に対する感度予測。横軸はアクシオン質量、縦軸は感度を示す。量子三準位系(実線)は量子ビット系(破線)と比較して、広い質量領域にわたり約1桁高い感度を実現することが示されている。
※図は掲載論文より転載。
 
研究グループ
 本研究は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)量子場計測システム国際拠点(WPI-QUP)の主任研究員であり、KEK素粒子原子核研究所(IPNS)理論センターの兼任研究員、ならびに東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の客員研究員を務めるヴォロディミル・タキストフ特任准教授(Volodymyr Takhistov)が発案し、主導しました。
 QUPのシャオリン・マ博士研究員(Xiaolin Ma)が、感度評価に関する主要な定量解析を担当しました。また、QUPの主任研究員であるエルンスト・デビッド・ヘルプシュレーブ特任准教授(Ernst David Herbschleb)が理論計算に貢献しました。
 さらに、京都大学化学研究所および京都大学スピントロニクス学術連携研究教育センターの水落憲和教授と、ヘルプシュレーブ氏が、ダイヤモンドNV中心を用いたセンシングの実験実装に関する専門的知見を提供しました。