反応機構を語る収率予測AI ―自動反応経路探索・自動実験・機械学習の融合―

公開日:2026年7月2日
本研究成果は、2026年6月19日に国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。 

 化学反応の収率を予測する人工知能(AI)は近年発展していますが、多くは「なぜそう予測できるのか」という反応の仕組み(反応機構)までは説明できませんでした。
 京都大学化学研究所 道場貴大 助教、北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD) 前田理 教授らの研究グループは、反応の途中に現れる多数の中間体のエネルギーを入力(記述子)として用いることで、収率を高い精度で予測しつつ、反応機構まで読み解ける「解釈可能なAIモデル」を構築しました。
 反応経路を自動で網羅的に探索する独自の計算手法(SC-AFIR法)、ロボットによる自動実験、線形回帰を組み合わせた手法です。パラジウム触媒による炭素-水素結合の変換反応に適用し、未知の配位子の収率を平均誤差約6%で予測し、収率を左右する重要な中間体を特定できることを示しました。
 本成果は、反応の最適化や機構解明を予測と理解の両面から支える新しい枠組みになると期待されます。

 

 
本研究の概要図:反応経路の自動探索で得た中間体のエネルギーを記述子とし、ロボット実験で得た収率と線形回帰でつなぐことで、収率予測と反応機構の解明を同時に実現する。(作成:道場 貴大)
 

●用語解説●

記述子(特徴量):機械学習において、分子や反応を数値の並びとして表現したもの。モデルはこの数値と実験結果との関係を学習する。どのような記述子を選ぶかが予測精度と解釈性を大きく左右する。

 

SC-AFIR法:単成分人工力誘起反応(Single Component Artificial Force Induced Reaction)法。分子に仮想的な力を加えることで、化学反応の経路を自動的に探索する手法。GRRMプログラムに実装されており、初期の原料を与えるだけで反応経路のネットワークを網羅的に構築できる。

 
研究者のコメント
「本研究は、機械学習による収率予測を「当たればよい」道具にとどめず、反応の仕組みを理解するための道具にできないか、という思いから始まりました。膨大な中間体を自動で洗い出し、その中から収率を左右する鍵を統計的に選び出せたときは、計算化学・実験化学・情報科学がひとつにつながる手応えを感じました。反応機構を理解した「AI化学者」を開発する足掛かりにしたいと考えています。」(道場 貴大)
 
 
研究領域情報
有機分子変換化学