1つで3役を担う金ナノクラスター触媒を開発 ―階層構造が生み出す多機能性―

公開日:2026年6月15日
本研究成果は、2026年6月14日に国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。 

 京都大学化学研究所 井芹建太 博士後期課程学生(研究当時)、關谷創太 博士前期課程学生、中村正治 教授、磯﨑勝弘 准教授らの研究グループは、立教大学理学部 山内颯斗 博士前期課程学生、三井正明 教授らの研究グループとの共同研究により、アルキニル配位子で保護された金22核ナノクラスターが、階層的な構造に由来する3つの異なる機能を同時に発現し、多機能性触媒として高い活性を示すことを明らかにしました。
 これまで金属ナノクラスターは、内部のコア構造と表面構造に基づいて多様な触媒作用を示すことが知られていました。研究グループはこれまでに、球状のチオラート保護金ナノクラスターが、コア構造と表面構造に基づく二重触媒作用を示すことを世界に先駆けて報告していました。しかし、球状コアに由来する低い光増感特性、配位子交換が起こりにくい表面構造、さらに機能性配位子が脱離しやすいことなどが課題となっており、触媒活性の向上が求められていました。
 本研究では、水素結合特性を持つアルキニル配位子で保護された金22核ナノクラスターを用いることで、(1)異方的な超原子分子コアによる高い光増感特性、(2)表面構造に由来する効率的な配位子交換反応、(3)中間層構造による機能性配位子の安定保持、という3つの機能を同時に実現しました。これにより、従来の金ナノクラスター触媒を大きく上回る高い触媒活性の達成に成功しました。
 本研究成果は、階層構造を有する異方的な金属ナノクラスターが、多機能性触媒として高い潜在性を持つことを示すものであり、今後の持続可能な有機合成手法の開発への貢献が期待されます。

 

 
本研究の概要図:金ナノクラスターの階層構造に基づく3つの機能により促進される脱水素クロスカップリング反応(作成:磯﨑 勝弘)
 

●用語解説●

金属ナノクラスター:数個から数百個程度の金属原子が、金属-金属結合によって集合したナノサイズの構造体。一般的な金属ナノ粒子と区別するため、特に粒径が約2 nm以下で、バルク金属のような金属性を示さないものを「金属ナノクラスター」と呼ぶ。

 

二重触媒:一つの触媒が、異なる2種類の触媒機能を同時に発現すること。本研究では、金ナノクラスターが光増感作用によって活性酸素種である一重項酸素を生成し、第三級アミンの酸化反応を促進するとともに、引き続く炭素-炭素結合形成反応も触媒することで、2つの反応過程を単一の触媒で実現していることを示す。

 

超原子分子:複数の超原子が結合し、全体として分子のように振る舞う構造体。通常の分子において原子軌道の組み合わせによって分子軌道が形成されるのと同様に、超原子分子では個々の超原子の超原子軌道が結合することで「超原子分子軌道」が形成され、そこに価電子が収容される。

 
研究者のコメント
「本研究は、従来用いてきたチオラート配位子に対し、配位部位を変えることで反応性の向上を目指して始めた研究でした。しかし、詳細に解析を進めた結果、単なる反応性向上にとどまらず、階層構造に由来する複数の機能が協働することで、従来の課題を克服した高い触媒活性が発現していることが明らかになりました。今後も、金属ナノクラスターの触媒応用のさらなる発展を目指し、多角的な視点から研究開発を進めていきたいと考えています。」(磯﨑 勝弘)
 
 
研究領域情報
有機分子変換化学