蛍石型強誘電体の分極反転における原子の動きをリアルタイムに直接観察 ―次世代強誘電体デバイスに向けた材料開発の新たな設計指針―

公開日:2026年4月1日
本研究成果は、2026年3月30日に国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。 

 近年の高度情報化社会では、情報を保存するメモリデバイスの低消費電力化や高速化・小型化が大きな課題となっています。こうした課題を解決する次世代メモリのひとつとして、物質内部の電気の偏り(分極)を利用する強誘電体メモリの開発が進められています。中でも、従来材料と比べて飛躍的に薄い膜厚でも分極を安定して保持できる蛍石型強誘電体が注目されています。
 しかし、この蛍石型強誘電体では、情報の保存や読み書きの根幹を担う分極反転(スイッチング)がどのような過程を経て進行しているのか、また構成する元素によってどのように分極の振る舞いをコントロールできるのかという点について未解明の点が数多くありました。さらに、従来型の強誘電体と異なり蛍石型強誘電体は軽い元素である酸素イオンの動きが分極を引き起こすものの、軽元素は検出信号が得づらく、特にその動的な振る舞いを捉えることは困難でした。
 京都大学化学研究所の菅大介准教授(研究当時、現・大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻教授)、Yufan Shen博士課程学生(研究当時)、槇麟太郎修士課程学生、島川祐一教授のグループは、一般財団法人ファインセラミックスセンターの大江耕介客員研究員、設樂一希上級研究員、小林俊介主任研究員、ならびにオーストラリア・モナッシュ大学のJoanne Etheridge教授と共同で、超高感度に物質内部の原子の並びを可視化できる最適明視野走査透過電子顕微鏡(OBF STEM)法を活用し、図1のように蛍石型強誘電体であるZrO2(酸化ジルコニウム)においてわずか0.1秒程度で生じる分極反転中の一連の原子の動きを捉えることに成功しました。その結果、分極反転は中間的な原子構造を経由することが分かり、さらにZrO2にHf(ハフニウム)を添加したHf0.5Zr0.5O2における計測との比較から、Hf添加が原子の動き方を大きく変えることを明らかにしました。この結果に第一原理計算を組み合わせた結果、添加元素によって分極反転の起きやすさをコントロールできることが示されました。
 本研究は、原子の並びを超高感度に可視化する最先端の電子顕微鏡法を次世代メモリデバイス材料に応用し、分極反転のダイナミクスを直接明らかにした点で大きなブレークスルーです。そして、どの元素をどの程度添加することが分極特性の制御に有効であるかを理解するための第一歩となり、次世代強誘電体材料の設計指針に大きな道筋を示すものとなります。

 

図 蛍石型強誘電体にて直接観察された分極反転中の原子の動き
 

●用語解説●

蛍石型強誘電体:HfO2やZrO2をベースとした強誘電体。2011年に初めて報告され、以来極めて薄い膜厚でも強誘電特性を発現することから世界的に研究が進められている。従来の強誘電体が陽イオンの変位によって分極を生じるのに対して、蛍石型強誘電体では酸素イオンの変位によって分極が生じる。

 

最適明視野走査透過電子顕微鏡(OBF STEM)法:STEMでは、0.1ナノメートル以下に収束した電子線を試料上で走査し、透過・散乱した電子を用いて結像し、原子の並びを直接可視化する。OBF STEM法は、さらに分割型検出器という次世代の電子検出器と画像処理プロセスを高度に組み合わせることで、従来手法から2桁程度高い感度で原子の並びを可視化できる。

 

第一原理計算:量子力学に基づき、物質の性質を理論的に計算する手法。ここでは、分極の有無に応じた原子構造の安定性やスイッチング過程のエネルギー障壁の計算に用いられた。

 
 
研究領域情報
先端無機固体化学