放射光で可視化した延伸ポリエチレン内部における不均一変形

公開日:2026年1月21日
本研究成果は、2025年11月14日に米国の国際学術誌「Macromolecules」にオンライン掲載され、掲載号のSupplementary Cover Art に採択されました。 

 ポリエチレン(PE)は、その優れた機械的特性と成型性から、レジ袋などの日用品や自動車部品に幅広く使用される結晶性高分子です。結晶性高分子は、ナノメートル(nm)からマイクロメートル(μm)にわたる極めて複雑な階層構造を形成することが知られています。PEは引っ張った際に階層構造に伴い複雑な変形挙動を示し、数百nm(サブミクロン)スケールにおいて不均一変形が起こることがX線散乱測定から示唆されていました。こうした階層構造と機械的性質の関係、特に材料の強度や耐久性を左右する「降伏挙動」の解明は、材料設計において極めて重要です。そこで、京都大学化学研究所 荒川勝利 博士課程学生、中西洋平 助教、竹中幹人 教授、ならびに三井化学株式会社からなる研究グループは、大型放射光研究施設SPring-8でのX線散乱測定および高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所のフォトンファクトリーにおける走査型透過X線顕微鏡(STXM)を組み合わせた解析を実施し、延伸したPE内部における構造の変形挙動を評価しました。その結果、延伸によって生じる、サブミクロンスケールにおける密度揺らぎの可視化に成功しました。特に、密度の低い領域(フィブリル間)で優先的に分子鎖が延伸方向に配向し、結晶の破壊が先行して起こることを実空間で明らかにしました。さらに延伸過程が進むと、この配向や破壊が高密度領域(フィブリル)に伝播するといった、空間的な結晶化度分布に依存した、段階的な変形挙動を起こすことを明らかにしました。本研究は、階層構造が変形に与える影響を実空間で捉えた画期的な成果であり、高機能な高分子材料の設計指針となることが期待されます。

 

 

●用語解説●

ポリエチレン(PE):機械的特性、成形性、耐薬品性に優れた汎用プラスチックであり、身の回りの日用品から、自動車部品まで幅広い用途で用いられる。

 

結晶性高分子:分子鎖が規則正しく並んだ結晶部分と、バラバラに配列した非晶部分から成る高分子。

 

階層構造:幅広いスケールそれぞれに対応して形成される、結晶による階層的な構造。

 
 
研究領域情報
高分子物質科学