“特殊な芳香族性”を示す新しいゲルマニウム化合物の合成 ―中性ホモ芳香族アレンの合成とその結合変換の実証―

公開日:2025年10月27日
本研究成果は、2025年10月20日に国際学術誌「Chemical Science」に掲載されました。 

 京都大学化学研究所 水畑吉行 准教授、内田大地 博士後期課程学生、山田容子 教授らの研究グループは、炭素と同族で、より高周期に位置するゲルマニウムを用いて“中性ホモ芳香族アレン”という新しい分子構造を創出し、これまでにない電子構造的性質を実証しました。
 アレン(R2C=C=CR2)は、中央の炭素原子が2つの二重結合で両側の炭素とつながった構造を持ち、反応性や立体構造の特徴から有機化学で重要な役割を果たしています。一方、近年ではこのアレンの炭素を高周期14族元素(Si, Ge, Sn, Pb)に置き換えた「重いアレン」の化学が盛んに開拓されており、高い反応性を活かした新しい化学が展開しています。本研究では、3つのゲルマニウム原子を導入した重いアレンを、メチレン基(–CH₂–)で架橋した4員環構造に組み込むことで、3つのゲルマニウム原子の間で2電子を環状に共有して安定化する「ホモ芳香族性」を示すことを明らかにしました。さらに、塩基との反応により、近年注目される分子である末端カルベン型構造を有するゲルマニウム間二重結合化合物へと結合状態を大きく変化させることができました。これらの成果は、「ホモ芳香族性」という特異な電子構造を、14族元素のみで構成された中性分子で初めて実現するとともに、その結合変換を実証したものであり、今後の新しい主族元素π系分子設計の指針となると期待されます。

 

研究概要図
 
研究者のコメント
「本研究で明らかにしたホモ芳香族性を示す中性分子は、炭素では実現が難しい電子構造であり、ゲルマニウムがもつ独特の結合特性を活かすことで初めて可能になりました。炭素を中心とした従来の化学では見いだせなかった、新たな結合の可能性が高周期元素の化学には広がっていると感じています。今後も新規化合物の合成とその性質解明を通じて、高周期元素ならではの化学を切り拓いていきたいと考えています。」(内田大地)
 
 
研究領域情報
有機元素化学