層状酸化物におけるFe3+/Fe5+間での可逆的な酸化還元に成功 ―安価な鉄を含んだ高エネルギー密度リチウムイオン電池の開発に向けた新展開―

公開日:2025年10月17日
本研究成果は、2025年10月15日に国際学術誌「Nature Materials」に掲載されました。 

 京都大学化学研究所 後藤真人 助教、島川祐一 教授と米国スタンフォード大学、オークリッジ国立研究所、SLAC国立加速器研究所、アメリカ国立標準技術研究所の共同研究チームは、層状酸化物Li4FeSbO6において、Fe3+イオンと異常高原子価と呼ばれる高い価数状態のFe5+イオンとの間の酸化還元反応により、リチウムイオンを可逆的に脱挿入できることを明らかにしました。このような電気化学反応の実証は、地球上に豊富に存在する安価で安全な鉄を用いて高性能なリチウムイオン電池を開発できることを示しています。
 電気自動車やスマートフォン等の普及に伴い、リチウムイオン電池の需要は年々高まっており、低コストと高性能を両立する電池材料の開発が強く求められています。コバルトやニッケルなどのレアメタルを含まない電池正極酸化物材料として、地殻中に最も豊富に存在する遷移金属である鉄を含むリン酸鉄リチウム(LiFePO4)が注目されていますが、Fe2+/Fe3+の酸化還元反応では動作電圧が低く電池のエネルギー密度を大きくすることができませんでした。このような課題を解決手法として、Fe4+やFe5+のような高い原子価状態への酸化還元を用いて動作電圧を高くする方法がありますが、このような高い原子価状態は不安定で可逆的な酸化還元はこれまでに実現していませんでした。
 本研究では、陽イオンの配列を精密に制御した層状酸化物Li4FeSbO6において、Fe3+/Fe5+の酸化還元反応により、可逆的なリチウムイオンの脱挿入が生じることを初めて実証しました。その動作電圧(4.2 V)は、Fe2+/Fe3+の酸化還元での動作電圧(2.8-3.5 V)よりもはるかに高いことから、これまでに報告のある鉄系の電池正極材料よりも高いエネルギー密度を生み出すことができます。この物質は層状の結晶構造においてLiとFeが交互に秩序配列することでFeイオン同士が隣接しないため、Fe3+/Fe5+の酸化還元が安定して起こることも明らかになりました。構造制御による材料設計により、地球上に豊富に存在する低コストの鉄を用いた高性能電池を開発するための新たな展開を拓く結果です。

 

研究概要図
 
 
研究領域情報
先端無機固体化学