超分子ピラミッドの液中創製に世界初成功! ―前駆体法と超分子重合の組み合わせで実現―

公開日:2025年8月20日
本研究成果は、2025年8月17日に国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。 

 京都大学化学研究所 山内光陽 助教、村上英之 博士後期課程学生、山田容子 教授の研究グループは、量子科学技術研究開発機構 藤田貴敏 博士との共同研究成果として、逆ディールスアルダー反応を利用した熱前駆体法を超分子重合プロセスに導入することで、難溶解性のπ拡張有機化合物テトラベンゾポルフィリンから、ユニークな多層分子集合体『超分子ピラミッド』への自己組織化を液中で達成し、ナノスケールからマイクロスケールへのサイズ拡張に成功しました。有機分子系単結晶などの綺麗な構造体を液中で作るためには、粉末を溶媒に加熱溶解させ分子分散(モノマー)状態とし、過飽和溶液から時間をかけて再結晶させるのが一般的です。しかし、分子本来の溶解性が乏しい場合には、高濃度の過飽和溶液が調製困難となり、綺麗かつ大きい構造体を効率的に形成させるのが難しくなります。本研究では、可溶性の前駆体を不活性モノマーとして用い、その溶液の加熱により目的の活性モノマーを系中で生成させることで、分子本来の溶解性を超えた高濃度の過飽和溶液を作り出しています。この加熱溶液を冷却することで超分子重合が開始され、数10マイクロメートルの幅をもつ極めて珍しいピラミッド構造への自己組織化が達成されました。本研究により、ピラミッド構造という特殊な超分子構造の物性・機能開拓にいち早く着手できると共に、液中で形成される超分子構造をサイズ拡張させるための重要な知見を示しており、超分子構造をそのまま電子デバイス化する次世代プロセスへの重要な架け橋になることが期待されます。

 

 

●用語解説●

逆ディールスアルダー反応:ディールスアルダー反応とは、二重結合が2つある分子(ジエン)と二重結合が1つある分子が反応して、6員環を形成する反応であるのに対して、逆ディールスアルダー反応はその逆の反応を指します。本研究では、前駆体化合物に含まれるビシクロオクタジエン骨格に熱が加わることで、エチレンを放出しながらベンゼン骨格に変換されます。

 

超分子重合:水素結合などの非共有結合的な弱い分子間相互作用によって、溶液中で分子が自発的に集合し、高分子のような構造を形成するプロセスです。超分子重合によって得られた構造は、共有結合により連なった通常の高分子と異なり、温度変化、溶媒変化などの外的要因によりモノマーへ分解可能な可逆性を有しています。

 
研究者のコメント
「本研究で登場する分子をデザインした段階では、繊維状の超分子ポリマーの形成を想定していましたが、筆頭著者の村上君が、極めてユニークなピラミッド構造が再現性よく得られることを発見してくれました。この構造の形成メカニズムについては、未解明な点が多いものの、ピラミッドという珍しい構造に出会えたことに大変嬉しく思います。(山内 光陽)」
 
 
研究領域情報
有機元素化学