環状に共役した新しいケトンの合成 ―芳香族ケトンの新たな可能性の開拓―

公開日:2025年6月24日
本研究は、2025年6月11日ににWiley社の国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。 

 京都大学化学研究所 茅原栄一 助教(研究当時、現 広島大学大学院先進理工系科学研究科准教授)、岡原諒太 博士前期課程学生(研究当時)、山子茂 教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科先進理工系科学研究科 柴田あみり 博士前期課程学生、安倍学教授らの研究グループは、環状π共役分子であるシクロパラフェニレン(CPP)にカルボニル基を挿入した新しい環状分子、「[n]シクロパラフェニレンケトン([n]CPP-CO)」(n= 6, 7, 8, 10)の合成に成功しました。これは歪んだ骨格を持つと共に、完全に共役系が繋がっている、初めての環状モノケトンの合成例です。CPPの効果により、励起一重項状態(S₁)が最低励起状態となることで、通常の芳香族ケトンが示すリン光ではなく蛍光を発するという特異な光物性が発現しました。さらに、この蛍光が酸素によって消光されるという極めて稀な挙動も確認されました。本成果は、分子トポロジーやひずみが光物性に及ぼす影響の理解を深め、次世代の有機光材料の設計に新たな可能性を開くものです。

 

シクロパラフェニレンケトンの合成ルートと光物性、さらにベンゾフェノン(典型的な芳香族ケトン)との違い
 
研究者のコメント
 本研究は当初、歪んだCPPをケトンとハイブリッド化することで、芳香族ケトンの特徴的な光物性である、三重項状態の性質を大きく変化させることができるのでは、との予想で行いました。しかし、予想に反して、最低励起状態が一重項になる、従来の芳香族ケトンにはない光物性をもつ分子であることがわかりました。分子の構造と物性との関係の奥深さを改めて実感した分子です。
 
 
研究領域情報
高分子制御合成