二次元強誘電体の作製に成功 – 強誘電体デバイス開発の新しいルートを開拓 –
京都大学化学研究所 菅大介 准教授、Yufan Shen 博士課程学生、治田充貴 准教授、島川祐一 教授の研究グループは、ファインセラミックスセンター 大江耕介 客員研究員、小林俊介 主任研究員、名古屋大学大学院工学研究科 Xueyou Yuan 特任助教、山田智明 教授と共同で、二酸化ハフニウムジルコニウム(Hf0.5Zr0.5O2, HZO)から、わずか結晶格子2個分に相当する1ナノメートル厚さの二次元強誘電体を作製することに成功しました。
炭素原子1層からなるグラフェンの発見以来、原子層厚さを持つ二次元物質が新しいナノ材料として注目を集めており、その材料開発や電子機能探求が盛んにおこなわれています。しかしながら、現在広く機能材料として使われている酸化物など、共有結合やイオン結合によって構成原子が三次元的に“強く”結合した物質(三次元物質)からは、二次元物質を作製することは難しいと考えられてきました。
研究グループでは、エピタキシャル薄膜成長技術によって、犠牲層となる酸化物層と、1ナノメートルの厚さの二酸化ハフニウムジルコニウムを積層させた試料を作製しました。その後犠牲層を選択的に除去(エッチング)することで、厚さを維持したまま二酸化ハフニウムジルコニウムのメンブレン結晶が得られることを見出しました。また作製したメンブレン結晶は、その特性評価から、室温において面直方向に15µC/cm2の自発分極を持つことがわかりました。これらの結果は、三次元物質である二酸化ハフニウムジルコニウムから二次元強誘電体が作製できることを実証するものです。本研究で開発した二次元強誘電体メンブレンは、磁性体や超伝導体など様々な機能性物質上へ転写可能です。本研究成果は、強誘電体と様々な機能性材料とを融合させた強誘電デバイスの開発の新しいルートを拓くものです。
上:二次元強誘電体の作製プロセス。
下:1nm厚さのHZOメンブレン結晶のtop-view HAADF-STEM像と、PUND測定からともめたHZOメンブレン結晶の自発分極量
炭素原子1層からなるグラフェンの発見以来、原子層厚さを持つ二次元物質が新しいナノ材料として注目を集めており、その材料開発や電子機能探求が盛んにおこなわれています。二次元物質は、原子層同士がファンデルワールス結合によって“弱く”結合したファンデルワールス結晶から、原子層を機械的に剥離することで、作製できることが広く知られています。しかし、ファンデルワールス結晶の種類は多くなく、作製可能な二次元材料は限られています。また、現在広く機能材料として使われている酸化物など、共有結合やイオン結合によって構成原子が三次元的に“強く”結合した物質(三次元物質)から、二次元物質を作製することも難しいと考えられてきました。
研究チームではこれまでに、準安定な菱面体晶構造強誘電相の二酸化ハフニウムジルコニウム(Hf0.5Zr0.5O2, HZO)がペロブスカイト型マンガン酸化物La0.7Sr0.3MnO3(LSMO)上にエピタキシャル成長できることを見出してきました。本研究では、LSMOが希塩酸水溶液に溶解するのに対して、HZOはほとんど溶解しないことに着目しました。図に示すように、パルスレーザー堆積法でチタン酸ストロンチウムSrTiO3基板上にHZO/LSMO積層構造を作製した後に、基板ごと積層試料を希塩酸水溶液中に浸すことで、HZOと基板との間のLSMO層のみを選択的に除去(エッチング)しました。LSMO層が溶解した後に、HZO層を基板から剥離し、HZOメンブレン結晶を得ました。走査透過電子顕微鏡(STEM)法で、結晶格子2個分に相当する1nm厚さのメンブレン結晶を観察したところ、強誘電相である菱面体晶の結晶構造が維持されていることがわかりました。また分極測定からは、室温において、面直方向に15µC/cm2の自発分極を有していることも確認しました。これらの結果は、三次元物質である二酸化ハフニウムジルコニウムから二次元強誘電体が作製できることを示すものです。
これまで、三次元強誘電体を数ナノメートルにまで極薄化すると自発分極が低減もしくは消失してしまうことから、二次元強誘電体の作製は難しいと考えられてきました。本研究成果は、この定説を打ち破り、三次元強誘電体からでも二次元物質が作製できることを示すものです。また、本研究で開発した二次元強誘電体は、磁性体や超伝導体など様々な機能性物質上へ転写可能でもあり、本研究成果は、強誘電体と様々な機能性材料とを融合させた新しい強誘電デバイスの開発の新しいルートを拓くものです。さらに、本研究におけるメンブレン結晶作製技術は、二酸化ハフニウムジルコニウムだけでなく、様々な三次元物質にも適用可能であることから、今後、本手法を活用した、二次元材料の開発が期待されます。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金、京都大学化学研究所国際共同利用・共同研究拠点等の支援によって行われました。
●用語解説●
エピタキシャル成長:土台となる単結晶基板の結晶面に合わせて原子を配列させて成長した薄膜。エピタキシャル薄膜は、原子レベルで定義された表面を有するために、モデル物質として扱うことができる。
パルスレーザー堆積法:真空容器中に設置した固体焼結体(ターゲット)の表面に、紫外線パルスレーザーを照射してターゲット表面を蒸発・気化し、対向する基板上に堆積することで、エピタキシャル薄膜や薄膜積層構造を作製する手法。
メンブレン結晶:土台となる基板からの支えがなくとも存在できる膜形状の結晶。
走査透過電子顕微鏡(STEM)法:サブオングストロームサイズまで収束した電子線を試料上で走査し、透過・散乱された電子を用いて結像する顕微鏡法。特に今回観察に利用した高角環状暗視野(HAADF)STEM法は、酸化物中のカチオン配列を輝点として直接観察できる。
二次元強誘電体の作製に成功―強誘電体デバイス開発の新しいルートを開拓―