集めてつなげば協力し合う、量子ドットの新しい協同効果を発見して 非線形光電流の増幅に成功 ―太陽電池、光エネルギーの有効利用につながる新現象―

本研究は、2024年1月31日に国際学術誌「Nature Nanotechnology」にオンライン掲載されました。 

 京都大学 白眉センター 田原弘量 特定准教授、同大学 化学研究所 金光義彦 教授、坂本雅典 准教授、寺西利治 教授の研究グループは、半導体量子ドットを集めて結合させることで現れる新しい協同効果を発見し、その効果を利用して非線形光電流を増大させることに世界で初めて成功しました。
 半導体量子ドットはナノメートルサイズの微小な結晶であり、2023年のノーベル化学賞の受賞対象となった材料です。量子ドットの中に電子を閉じ込めることで、量子力学的な効果によって光の吸収や発光の波長を変えることができます。そのため、広い波長範囲の光を吸収して電気を取り出す太陽電池や、好きな色に光らせる発光ダイオードなどの光電デバイスの材料として注目されています。
 本研究グループは、たくさんの量子ドットを集めた集合体がどのような物性機能を持つのかを明らかにするために、量子ドット同士を有機分子で結合させた量子ドット膜を作製し、光照射によって量子ドットに作られた電子を電流として取り出す実験を行いました。有機分子の長さを変えながら量子ドット同士の距離を近づけていったところ、量子ドット膜から取り出される非線形光電流が非常に大きくなることを発見しました。レーザーパルス光を使った電子の量子干渉計測を行うことで、集団の量子ドットの中に入った電子が互いに協同的に振る舞うことでこの増大現象が生じることを明らかにしました。非線形な光電流が増大することは、照射した光のエネルギーが物質の中で高いエネルギーに変換されて電流として取り出せることを意味しており、低いエネルギーの光を有効利用した光センサーや太陽電池などの新しい技術につながると期待されます。

図 : 半導体量子ドットをつなぐ有機分子を短くすることで、多数の量子ドットがお互いに協同して光電流を強めること(量子協同効果)を発見しました。
 
1. 背景
 コロイド半導体量子ドットは、溶液中で合成できる半導体の微結晶です。大きさは数ナノメートルから十数ナノメートルと非常に小さく、中に電子を閉じ込めることができる材料です。溶液中で結晶成長させるときに、結晶の大きさを制御することで光の吸収と発光の波長を変えることができます。そのため、量子ドットが入った溶液を基板に塗ることで、量子ドットを利用した太陽電池や発光ダイオードなどの光電デバイスを作ることができ、世界的に非常に活発に研究が行われています。2023年のノーベル化学賞が量子ドットの発見と合成に関する研究に決定したことも、量子ドットが画期的な材料であることを象徴しています。
 これまでの量子ドットの研究では、個々の量子ドットがばらばらの光学応答を示す場合がほとんどでした。つまり、量子ドットがたくさんあってもただの寄せ集めになっており、集まること自体に特別な効果は観測されてきませんでした。集めた量子ドットがお互いに協力してまとまった1つの光学応答を示す状況を作ることができれば、これまで以上に大きな光エネルギーや電気エネルギーを取り出すことができると期待されます。しかし、どのようにすれば、そのような状況を作り出せるのか明らかになっていませんでした。
 
2. 研究手法・成果
 本研究グループは、集めた量子ドットがお互いに協力し合う状況を作り出し、量子ドット集合体の新しい物性機能を生み出すことを目的として研究を行いました。量子ドット同士を有機分子で結合させた量子ドット膜を作製し、光照射によって集団の量子ドットがどのような物性機能を持つのかを調べました。具体的には、量子ドット太陽電池の研究で注目されているPbS(硫化鉛)量子ドットを材料に用いて、長さが異なる有機分子で量子ドット同士を結合させた複数の試料を作製しました。光照射によって量子ドット内に作られた電子の応答を精密に計測するために、2つのレーザーパルス光を用いて光電流を発生させる実験を行いました。電子は量子力学的に波(波動関数)として振る舞うため、2つのパルス光によって作られた電子の波を重ね合わせて強め合いと弱め合いを測定する量子干渉分光を行うことで、正確な電子応答をとらえることができます。
 量子ドット膜から取り出される光電流の量子干渉信号を計測したところ、量子ドット同士をつなぐ有機分子の長さを短くしていくと、非線形な光電流信号が増大していく現象を発見しました。照射するレーザー光の強さと有機分子の長さを変えながら詳細に計測することで、隣り合う量子ドットが協同的に応答し、それが光電流信号の増大を引き起こしていることを明らかにしました。量子ドット1個あたりに作られた電子の数で規格化しても信号が増大していることから、単に電流が流れやすくなったという範囲を超えた新しい現象であることが分かりました。有機分子の長さを炭素原子2個分まで短くすることで、集めた量子ドットがお互いに協力し合う状況を作り出し、電気信号を増大させることに成功しました。
 
3. 波及効果、今後の予定
 光に対して多数の量子ドットがいっしょに応答する量子協同効果を発見したことは、非常に重要な成果です。非線形な光電流が増大しているということは、照射した光のエネルギーが物質の中で高いエネルギーに変換されて電流として取り出せることを意味しています。そのため、赤外線のような低いエネルギーの光を有効利用した光センサーや太陽電池などの新しい光電デバイス技術につながると期待されます。
 
4. 研究プロジェクトについて
 本研究は、下記の助成金の支援を受けて行われました。JSPS科研費・特別推進研究(19H05465)、基盤研究(B)(22H01990)、挑戦的研究(萌芽)(23K17877)、JST-CREST(JPMJCR21B4)、JST-FOREST(JPMJFR201M)