エマルジョン重合によるトポロジカル共重合体の実用的合成

本研究成果は、2023年7月12日にドイツの科学誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン公開されました。 

 京都大学化学研究所 蒋語涵 博士研究員、木舩雅人 大学院生(当時)、登阪雅聡 准教授、山子茂 教授らのグループは、独自に開発した多分岐ポリマーの合成法をエマルジョン重合に応用し、様々な形態を持つ多分岐ポリマーを実用的に合成する技術を開発しました。

 多くのプラスチック材料などは線状(ひも状)の合成高分子(ポリマー)から出来ています。一方、多くの枝分れを持つ多分岐ポリマーは、線状ポリマーに無い特徴的な物性や機能を持つことから、機能性高分子創製の鍵物質であると考えられています。しかし、これまで分岐構造の制御と実用性を兼ね備えた合成法が無かったことから、その利用は極めて限られていました。本研究グループは既にラジカル重合により線状高分子の構造を制御する方法を開発すると共に、この重合系に新たに分岐を誘起するモノマーを設計して加えることで、単段階の重合反応により三次元構造の制御された多分岐ポリマーを合成する手法を開発していました。
 しかし、これまでのこの合成は均一系の重合で行ってきたため、機能性高分子の宝庫であるブロック共重合体の合成においては、溶液の粘度の増加に由来する問題があり、効率的にブロック共重合体を合成することが困難でした。この問題は、多分岐ポリマーに限らず、線状高分子からなるブロック共重合体においても同様であり、この問題の解決のために、本研究グループでは水中で重合を行うことで、ポリマーを粒子として得るエマルジョン重合に着目して研究を進めてきました。今回、エマルジョン重合に適した分岐誘起モノマーの設計を含め、多分岐ポリマーをエマルジョン重合で合成する方法について検討を行い、従来の問題点の解決を行いました。
 

図1 a) 多分岐ポリアクリレートのエマルジョン重合の反応式と生成したエマルジョン、b) 合成された世代(G)の異なるホモHBPの模式構造、c) トポロジカルブロック共重合体の模式構造
 

 従来用いていた分岐モノマーでエマルジョン重合を行ってみたところ、水と相分離することが分かったため、新たにフェニルエチル基を持つビニルテルリド1を分岐誘起モノマーとして設計・合成しました。その結果、水溶性の有機テルル重合制御剤2を用い、1とアクリル酸エステルとのエマルジョン共重合を行ったところ、構造制御された多分岐ポリマーがエマルジョンとして得られました(図1a)。12の仕込み比を変えることで、従来の均一系と同様に分岐構造を変えて合成できると共に、分岐数を255個持つ第8世代の多分岐ポリマーも初めて合成することに成功しました(図1b)。

 さらに、合成されたポリマーが水溶液に分散しているエマルジョン重合の特徴を利用すると共に、分岐誘起モノマーを加えるタイミングを制御することで、線状構造と多分岐構造を持つ共重合体(Linear-HB)、多分岐構造の先に線状構造を持つ共重合体(HB-Linear)、異なる分岐密度を持つ共重合体(HB-HB)の合成が行えることを明らかにしました(図1c)。このような異なるトポロジーからなる共重合体を効率的に合成した初めての例であり、このような共重合体をトポロジカル共重合体と名付けました。さらに、トポロジーの効果を溶液状態における固有粘度から検証を行い、意図した構造に対して期待される傾向を示しました。

 この方法は、多様な構造を持つ多分岐ポリマーを実用的に合成できる技術です。この技術を利用して、所望の物性を持つ多分岐ポリマーを効率的に生産できることが期待されます。