多分岐ポリマーの制御されたラジカル重合に関する確率的シミュレーション-分岐構造の分布を詳細に解析-

本研究成果は、2023年5月17日にドイツの科学誌「Angewandte Chemie International Edition」にVIP(Very Important Paper)としてオンライン公開され、Chemistry Europeのスポットライトに選出されました。 

 京都大学化学研究所 登阪雅聡 准教授、同大学 竹内雛子 学部生(当時)、木舩雅人 大学院生(当時)、仝天翔 大学院生、朱南屹 大学院生(当時)、山子茂 教授らのグループは、独自に開発した多分岐ポリマーの構造形成過程について確率的シミュレーションを行い、大部分の多分岐ポリマーは理想に近い枝状高分子構造を持つことを明らかにしました。

 多くのプラスチック材料などは線状(ひも状)の合成高分子(ポリマー)から出来ています。一方、多くの枝分れを持つ多分岐ポリマーは、線状ポリマーに無い特徴的な物性や機能を持つことから、機能性高分子創製の鍵物質であると考えられています。しかし、これまで分岐構造の制御と実用性を兼ね備えた合成法が無かったことから、その利用は極めて限られていました。それに対し、これまでに本研究グループは、ラジカル重合において新たな分岐誘起モノマーを設計することで、三次元構造の制御された多分岐ポリマーを単段階で効率的に合成する手法を開発していました(図1、上の反応式)。しかし、複数の実験的証拠から、分子量や分岐構造が高度に制御されていることが示唆されていましたが、得られた多分岐高分子の構造に関する情報は全く得られていませんでした。そこで、本研究グループの手法による多分岐ポリマーの合成過程について確率的シミュレーションを行うことにより、どのような構造分布が生じているかを詳細に解析しました。
 
 シミュレーションでは、合成に関係する素反応の速度定数、および、試薬の配合を初期値として設定し、その条件で分子が成長する様子を再現して、最終的に多数の多分岐ポリマーをデータとして生成し、そのデータについて統計的解析を行いました。その結果、分散度(分子量分布)が実験結果と良く一致し、本重合法で得られる多分岐ポリマーが若干高い分散度を持つことが、分岐数の分布に由来することを明らかにしました。さらに、分岐構造は極めて良く制御されていることもわかりました。加えて、ある分子の大きさ(重合度)と分岐数を持つ多分岐ポリマーの重量分布を調べると、大部分は理想的に近い構造を持つこと、即ち、デンドリマーと呼ばれる規則的に分岐構造を持つ多分岐ポリマーと同様の構造を持つと共に、重合制御剤と分岐誘起モノマーの比率を変えることで分岐の階層を制御できることが確認されました。

図1 : 新しい多分岐高分子の構造制御合成法と、シミュレーションが示した分岐構造の分布。

 

 従来の単段階での多分岐高分子合成法では、デンドリマー構造を持つ高分子の合成は不可能でした。このシミュレーション結果により、本研究グループが開発した重合法が、従来知られているデンドリマーと多分岐高分子の間に位置する、新しい多分岐高分子を合成する新しい方法であることが改めて示されました。今後の機能性高分子設計に大きく寄与する成果であると考えています。