キャリア選択的透過膜を導入したプラズモニック光触媒
キャリアの流れを制御することで触媒活性の大幅向上に成功

本成果は、201955日に国際学術雑誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン公開されました。
 京都大学化学研究所の川脇徳久学振特別研究員(現 東京理科大学助教)、坂本雅典准教授、寺西利治教授らは、ホールを選択的に透過するナノレベルの厚さの膜を開発し、光によってプラズモニック粒子近傍に形成されたキャリアの流れに方向性を与えることで、プラズモニック光触媒による水分解水素生成反応の効率と耐久性を大きく向上させることに成功しました。
 
 無色透明な材料における光誘起電子移動の実現は、景観やデザイン性を損なわずに社会のあらゆるところに設置できる通信システムや透明太陽電池などの次世代エネルギー生産を実現するキーテクノロジーとして多くの注目を集めています。紫外域の光を用いれば、無色透明でありながら光電子移動を起こすことのできる材料を作ることはできますが、紫外光は通信、エネルギー変換に向いていないため、長波長で不可視の光である赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる材料の開発が強く求められていました。
 プラズモニック粒子(金や銀などのナノ粒子)は古くからステンドグラスや切子といったガラスの着色材料として用いられてきました。近年、このような身近な材料を光触媒に応用することで、そのエネルギー変換効率を向上し、光触媒の使用量を低減する研究に注目が集まっています。一方で、プラズモニック粒子は光触媒のエネルギー変換効率を向上させると同時に、光によって光触媒内に形成されたキャリア(電子(負の電荷)とホール(正の電荷))を吸い取ってしまい、触媒活性を失活させるという負の効果を持つことが知られています。プラズモニック粒子を導入した光触媒(プラズモニック光触媒)においては、この負の効果を押さえることが重要な研究課題となっていました。
 我々は、ホールを選択的に透過するナノレベルの厚さの膜を開発し、光によってプラズモニック粒子近傍に形成されたキャリアの流れに方向性を与えることで、プラズモニック光触媒による水分解水素生成反応の効率と耐久性を大きく向上させることに成功しました。この知見は、光触媒や太陽電池といったエネルギー変換分野だけでなく、センサー・通信機器などの光学分野においても役に立つ重要なものです。
 
 
ホールを選択的に透過するバリア層の導入により、プラズモニック光触媒の活性が劇的に向上した。
 
 
1. 研究で特にアピールしたい点
 近年、プラズモニック粒子を光触媒に応用することで、そのエネルギー変換効率を向上し、光触媒の使用量を低減する研究に注目が集まっています。本研究では、プラズモニック粒子や光触媒自体ではなく、その間を繋ぐ膜に機能性を持たせるという新しい概念を提案しました。
 今回、我々の開発したナノレベルの厚さの膜は光によって形成されたキャリア(電子とホール)のうち、ホールを選択的に透過します。この結果、光によってプラズモニック粒子近傍に形成されたキャリアの流れに方向性を与え、プラズモニック光触媒による水分解水素生成反応の効率と触媒の耐久性を大きく向上させることに成功しました。今回の研究成果は、光触媒や太陽電池といったエネルギー変換分野だけでなく、センサー・通信機器などの光学分野においても幅広く役立ちます。
 
2. 研究への思い
 金や銀などの貨幣元素は、サイズを変えることで、光学性質が激変するとても面白い材料です。これらのプラズモニック粒子が、光機能材料として広く応用が進んでいく中で、本研究では、プラズモニック粒子や光触媒自体ではなく、その間を繋ぐ膜に機能性を持たせるという新しい概念を提案しました。これらの研究成果は一人では到底できたものではなく、共同研究者の方々の多大なるご協力によるものであり、深く御礼申し上げます。
 
3. 社会へのメッセージや将来への展望
 光触媒を用いた人工光合成は、人類にとって究極のエネルギー・資源の生産技術といえます。我々の生活に身近な、金や銀などのナノ材料を光触媒に応用することで、そのエネルギー変換効率を向上し、光触媒の使用量を低減することができます。環境や人体にも親和性が高い光機能材料の開発によって、化石燃料に頼ったエネルギー・資源の変革が期待できます。
 
 

●用語解説●

プラズモニック粒子:入射光によって誘導される材料中の電子の集団振動を表面プラズモン共鳴といいます。ナノメートルサイズの構造における表面プラズモン共鳴を局在表面プラズモン共鳴と呼び、この現象を示す粒子をプラズモニックナノ粒子と呼びます。