赤外光を電気エネルギーや信号に変換する無色透明な材料の開発
―見えない電子デバイスの開発へ道―

坂本雅典准教授、川脇徳久氏(日本学術振興会特別研究員)、寺西利治教授

(物質創製化学研究系 精密無機合成化学研究領域)

 

坂本雅典准教授、川脇徳久氏(日本学術振興会特別研究員)、寺西利治教授(写真左より)

本成果は、2019124日に国際学術雑誌「Nature Communications」にオンライン公開されました。
 京都大学化学研究所の坂本雅典准教授、川脇徳久特別研究員(日本学術振興会)、寺西利治教授、豊田工業大学の山方啓准教授、徳島大学の古部昭広教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所の松﨑弘幸主任研究員らの共同研究グループは赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる目に見えない材料の開発に成功しました。
 
 無色透明な材料における光誘起電子移動の実現は、景観やデザイン性を損なわずに社会のあらゆるところに設置できる通信システムや透明太陽電池などの次世代エネルギー生産を実現するキーテクノロジーとして多くの注目を集めています。紫外域の光を用いれば、無色透明でありながら光電子移動を起こすことのできる材料を作ることはできますが、紫外光は通信、エネルギー変換に向いていないため、長波長で不可視の光である赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる材料の開発が強く求められていました。
 今回、研究グループは赤外域に局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を示す無機ナノ粒子を用いて、赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる無色透明な材料の開発を行いました。赤外域にLSPRを示すスズドープ酸化インジウムナノ粒子を光吸収材に応用することで、透明性(可視域の透過率>95%)と高い電子移動効率(電荷注入効率:33%)を両立することに成功しました。また、本材料は1,4004,000 nmという近赤外域から中赤外域の光に応答することが明らかになっています。本成果は、透明な太陽電池、通信機器、光学センサーなどの最先端デバイスの開発への応用が期待されます。
 
1. 研究で特にアピールしたい点
 無色透明な材料を用いた光誘起電子移動の実現は、目に見えない通信システムや、センサー、エネルギー生産を実現するキーテクノロジーです。我々は、目には見えませんが長波長で不可視の光である赤外光を電気エネルギーや信号に変換することのできる新しい材料の開発に世界で初めて成功しました。今回の研究成果は、透明なセンサーや、見えない通信機器、ガラスのような太陽電池といったSF小説のような電子機器の開発につながることが期待されます。
 
2. 研究への思い
 無色透明であるが、光に応答するという二律背反した材料の開発を思いついてから実現するまで、5年間という長い時間がかかりました。2014年に最初の実験結果を得てからも、現象を完全に理解するために何度も追加で実験を行ったため、学生さん、共同研究者の方々は大変だったと思います。光反応機構の解明は、学際的な共同研究による多角的なアプローチの貢献が非常に大きく、共同研究者の方々に深く感謝いたします。
 
3. 社会へのメッセージや将来への展望
 今回の研究では、透明性(可視域の透過率>95%)と赤外光による高い光誘起電子移動効率(電荷注入効率:33%)を両立する新しい材料の開発に成功しました。今回の研究成果は、目に見えないセンサーや、透明な通信機器、透明太陽電池などの光エネルギー変換材料の開発につながることが期待されます。今後は、電荷注入効率の更なる性能向上とともに、透明な電子デバイスへの応用を目指し、材料開発を進める予定です。
 

●用語解説●

局在表面プラズモン共鳴:入射光によって誘導される材料中の電子の集団振動を表面プラズモン共鳴といいます。ナノメートルサイズの構造における表面プラズモン共鳴を局在表面プラズモン共鳴と呼びます。