新しい赤外光誘起キャリア移動機構の発見
-赤外光のエネルギー利用に期待-

本成果は、2018年6月13日に英国科学誌Nature Communicationsにオンライン公開されました。
 京都大学化学研究所の廉孜超(リャンジーチャオ)理学研究科博士後期課程学生、坂本雅典(さかもとまさのり)同准教授、寺西利治(てらにしとしはる)同教授、治田充貴(はるたみつたか)同助教、倉田博基(くらたひろき)同教授、豊田工業大学の松永大典(まつながひろのり)修士課程学生、Junie Jhon M. Vequizo(ジュニージョンエムヴェッキーゾ)同研究員、山方啓(やまかたあきら)同准教授、京都大学福井謙一記念研究センターの太田航(おおたわたる)工学研究科博士後期課程学生、佐藤徹(さとうとおる)同教授の共同研究グループは、硫化銅ナノ粒子と硫化カドミウムナノ粒子を連結させたユニークな構造を有するナノ粒子において、現在までに報告されていなかった新しいプラズモン誘起電荷移動が進行することを明らかにしました。
 
 局在表面プラズモン共鳴(LSPR : Localized Surface Plasmon Resonance)は、紫外から赤外域まで様々な波長領域で制御可能であるため、太陽電池や光触媒、光学センサーなどへの応用の可能性から大きな注目を集めています。LSPR材料と半導体の界面に光を照査した際に観測されるプラズモン誘起電荷移動という現象は、LSPR材料を用いた光‐エネルギー変換の実用化のカギを握る重要な機構として世界中で精力的に研究が行われています。
 今回、研究グループでは、赤外域にLSPRバンドを示す硫化銅ナノ粒子と硫化カドミウムナノ粒子を連結させたヘテロ構造ナノ粒子を合成し、そのプラズモン誘起電荷移動を過渡吸収スペクトル測定法により観測しました。この結果、キャリアトラッピングを経由した段階的なキャリア移動という新しいプラズモン誘起電荷移動機構を発見しました。プラズモン誘起電荷分離は、電荷分離によって生じたホールと電子の再結合による損失が大きな問題ですが、新たに発見された機構は、従来のプラズモン誘起電荷分離と比べるとはるかに長い電荷分離寿命を示し、優れた光電変換材料であることが示されました。今回開発された技術は、硫化銅ナノ粒子のLSPRバンドを利用した赤外光応答光触媒など、革新的な太陽光のエネルギー変換材料への応用が期待されます。
 
 

●用語解説●

プラズモン誘起電荷移動: 金ナノ粒子と酸化チタンの界面など、LSPR材料と半導体などの接合界面において光照射を行うと、LSPRバンドの励起に伴ってLSPR材料中に形成された熱キャリアが半導体に注入されます。この現象をプラズモン誘起電荷移動と呼びます。

 

局在表面プラズモン共鳴: 入射光によって誘導される材料中の電子の集団振動を表面プラズモン共鳴といいます。ナノメートルサイズの構造における表面プラズモン共鳴を局在表面プラズモン共鳴と呼びます。

 

過渡吸収スペクトル測定法: サンプルにパルスレーザーを光照射することによって光励起状態や反応中間状態等の過渡種を生じさせ、その減衰・生成過程を光吸収スペクトルの変化として追跡する測定法。材料中で起こるキャリアの動きを直接観察することができるため光誘起電荷移動の詳細な機構を解明する上で有効な計測手法です。