一個の水分子により水和されたフッ化水素の単離に成功
~水素結合を利用した電子デバイス材料の開発に期待~

本成果は、2017年4月22日(米国時間)に科学誌Science Advancesのオンライン速報版で公開されました。

 構造有機化学研究領域の張 鋭 博士(平成29.3 博士課程修了)、村田 理尚 助教(現 大阪工業大学准教授)、若宮 淳志 准教授、村田 靖次郎 教授、ならびに、分子環境解析化学研究領域の下赤 卓史 助教、長谷川 健 教授らは、一個の水分子により水和されたフッ化水素を炭素原子が球状に結合しているフラーレンの一種であるC70の内部に閉じ込めることに成功しました。

 

概要

 水溶液中における酸の解離は化学の最も重要なプロセスの一つですが、複数の水分子が関与するために、分子レベルで構造の明確な分子錯体の研究はほとんどありませんでした。
 今回、化研の研究グループでは、フラーレンC70に開口部を構築し、そこからフッ化水素分子 (HF) を挿入したところ、一個のHF分子の内包が確認されただけではなく、H2O-HF錯体、ならびに一個の水分子がC70の内部に挿入できることを見出しました。その後、開口部を元通りに修復することによって、これらの化学種を内包したC70の合成に成功しました(図1)。C70内部のH2O-HF錯体は、強い水素結合により固定化されていることが分かり、また、外側のフラーレン骨格が少し膨らんでいることが明らかとなりました。今後、開発した技術を利用して、水和された酸の研究が可能になり、さらに、電子材料として期待されているフラーレンの新しい性質に関する研究を進める事ができます。

 
図1 HF分子、H2O-HF錯体、ならびにH2O分子を内包したフラーレンC70
 

●用語解説●

フラーレンC70 70個の炭素原子が球状に結合しているフラーレンの一種。完全な球状のC60に対して、C70はラグビーボール状の形である。

 

水素結合: 電気陰性度の高い原子に共有結合で結びついた水素原子が、近傍の酸素等の孤立電子対とつくる非共有結合性の引力的相互作用。

  
 
本研究は、科研費、ならびに共同利用・共同研究拠点の支援によって行われました。