実用輝度領域で世界最高レベルの効率を示す
有機EL素子の開発に成功

本成果は、2017年2月に国際学術雑誌「Advanced Materials」に掲載されました。

 京都大学化学研究所 梶弘典教授、鈴木克明助教、志津功將助教のグループは、九州大学 安達千波矢教授、韓国ソウル国立大学 Kim, J.-J.教授、Moon, C.-K.氏との共同研究により、高輝度領域においても外部量子収率30%を超える高特性有機EL素子の開発に成功しました。
 

 

 有機ELは、実用面では白色照明の量産化やiPhone 8などへの搭載が進みつつあるとともに、基礎研究面でも新たな原理に基づく高性能な発光材料が開発される等、様々な展開が進んでいます。
 今回、我々が開発した高性能な緑色有機EL発光材料(DACT-II, 参考文献1)と、Kim, J.-J. 教授らが開発したエキシプレックスホスト(参考文献2)を組み合わせることにより、高輝度領域においても高い特性を維持できる有機EL素子を開発することに成功しました。その概念図を図に示します。
 有機ELにおける発光材料の特性は素子特性を大きく左右するため、その開発は極めて重要です。現在、高性能な発光材料の設計・開発が国内外で活発に行われていますが、実用レベルの輝度では三重項励起子が相互作用のため失活し、発光効率が急激に低下していくという問題がありました。今回、極めて優れた特性を有するDACT-IIをエキシプレックスホスト中にドープすることにより、発光分子上の三重項励起子をすばやく一重項励起子に変換させるとともに、ホスト上の三重項励起子もすばやく一重項励起子に変換、発光分子であるDACT-IIに迅速にエネルギー移動させることが可能となり、高輝度領域での発光効率を飛躍的に向上させました。この素子設計の結果、発光の低電圧化を達成すると同時に、外部量子収率 (EQE)が最大で34.2%、1000 cd/m2の高輝度領域においても31.0%を維持する有機ELを実現することが可能となりました。
 今後、さらなる特性を有する新規発光材料を開発するにあたり、材料の持つポテンシャルを十分に発揮させるべく、この技術を利用していきたいと考えています。

 
図:エキシプレックスホストを用いた有機ELの概念図。エキシプレックスホスト上で電荷再結合が起こった場合、ホスト上で一重項励起子(S1)が25%、三重項励起子(T1)が75%の確率で生成するが、エキシプレックスではS1-T1間のエネルギー差(ΔEST)が小さいためT1からS1へ、さらに発光分子のS1へとエネルギー移動が迅速に起こる。発光分子で再結合した場合も、このDACT-II分子ではΔESTが小さく、T1→S1変換が100%で起こるため、T1同士の相互作用による発光効率の低下を大幅に低減することが可能となる。
 

参考文献

(1)Kaji, H.; Suzuki, H.; Fukushima, T.; Shizu, K.; Suzuki, K.; Kubo, S.; Komino, T.; Oiwa, H.; Suzuki, F.; Wakamiya, A.; Murata, Y.; Adachi, C., Purely Organic Electroluminescent Material Realizing 100% Conversion from Electricity to Light, Nature Communications, 6, 8476 (2015).

(2)Park, Y.-S.; Kim, K.-H.; Kim, J.-J., Efficient Triplet Harvesting by Fluorescent Molecules through Exciplexes for High Efficiency Organic Light-emitting Diodes, Applied Physics Letters, 102, 153306 (2013).

 

●用語解説●

有機EL: 電界印加により生じる発光をエレクトロルミネッセンス(EL)といいます。特に、有機物質が発光する場合、有機ELと呼ばれます。

 

一重項励起子、三重項励起子: 有機EL素子においては、一方の電極から正孔が、もう一方の電極から電子が注入されますが、それらが出会い、ペアになったものを励起子と呼びます。励起子には一重項励起子と三重項励起子の2種があり、上記の過程では、一重項励起子が25%、三重項励起子が75%の確率で生成します。高輝度領域では、素子内での励起子の濃度が高くなるため励起子同士の相互作用が生じはじめ、それにより、光ることなく失活してしまうことが起こります。特に、三重項励起子はその寿命が長いため、その傾向が顕著です。

 

エキシプレックス: 電子励起状態において、異なる2分子間が相互作用した会合体のこと。この会合体では、一重項励起子と三重項励起子のエネルギー差が極めて小さく、三重項励起子をすばやく一重項励起子に変換することが可能となります[Goushi, K.; Yoshida, K.; Sato, K.; Adachi, C., Nature Photonics, 6, 253 (2012).]。

 

外部量子収率: 素子に注入された電子と正孔の数に対する、素子外まで取り出すことができた光子(フォトン)の数の割合。素子の特性を表す指標で、今回の素子では、その理論限界は34%という計算結果が得られました。一般的に言われている理論限界は20~30%で、それよりも高い値ですが、これは、DACT-IIが基板に対して水平に配向するという優れた特性を有するためです。今回、実験的に、この理論限界に達する値が得られたことになります。