島川、高野、寺嶋教授(低温物質科学センター)ら  「チタン酸ストロンチウムの室温青色発光」を発見!

 京都大学化学研究所(京都府宇治市)の島川祐一教授、寺嶋孝仁教授(現在、低温物質科学センターに所属)、菅大介大学院生、高野幹夫教授を中心とする研究グループは、アルゴンイオンビームを照射したチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)が室温で青色発光を示すことを発見しました。

京都新聞(1面)・日経新聞(19面科学欄)に関連記事、掲載。


   チタン酸ストロンチウムは、ペロブスカイト型とよばれる結晶構造を有する透明絶縁体であり、安価でかつ安定な非常によく知られた酸化物です。本研究で は、これにアルゴンイオンビームを照射すると、波長430ナノメートルを中心とする青色のフォトルミネッセンス、およびカソードルミネッセンスが室温で現 れることを見出しました。

 発光は、アルゴンイオンビームの照射により酸素を一部放出した厚さ20ー30ナノメートルの表層で起こります。この点は、同様の青色発光が、低い酸素分圧中で作成した酸素欠損チタン酸ストロンチウム薄膜でも観測されたことからも確認されます。

 アルゴンビーム照射前の結晶は絶縁体です が、発光試料は金属的な電気伝導性を示します。この結果は、酸素の欠損により伝導帯に生じた伝導電子が発光メカニズムに関わっていることを示唆していま す。この「伝導電子」と励起光や電子線照射により生まれる「ホール(正孔)」が出会って共に消滅する際に(再結合過程)この青色発光が生じていると考えら れます。これは、「発光するものは絶縁体」という従来の常識を破るメカニズムです。

 青色発光素子では窒化ガリウム(GaN)などの半導体材料が注目を集めていますが、今回発見したチタン酸ストロンチウムでの青色発光は、アルゴンイオンビームの照射という簡便な手法で局所的な酸素欠損領域を作り出し発光させられることが大きな特徴です。

[上下図] アルゴンイオンビームを照射した
チタン酸ストロンチウムの発光スペクトル 
 微細加工技術を使ってアルゴンイオンビームの照射領域をパターン化することで、任意の大きさや形状の発光素子を簡単に作ることが可能となります。現段階 では発光強度が低いために直ちに実用化を考えることは難しいですが、これを契機にしてさらなる材料開発やデバイス化などへの展開を期待しています。

 チタン酸ストロンチウムと同じペロブスカイト型の結晶構造をとる物質には、高温超伝導酸化物や巨大磁気抵抗酸化物、最近ではマルチフェロイックスと呼ばれる新しい磁性強誘電体酸化物などがあります。

[上図]  微細加工によりアルゴンイオンビーム照射領域をパターン化した
   チタン酸ストロンチウムカソードルミネッセンス

左:KYOTO の文字領域をアルゴンイオンビームで照射、
  KYOTO の文字が青色に発行、一文字は約50マイクロメーター
右:KYOTO の文字領域をマスクして背景領域をアルゴンイオンビームで照射、
  KYOTO の文字部分のみが発光していない

 このような酸化物材料の示す多彩な物性は、シリコンを中心とする半導体では実現不可能な将来の新しいエレクトロニクスを生み出すものとして期待されてい ます。今回のチタン酸ストロンチウムでの青色発光現象の発見は、このような酸化物エレクトロニクスに新しい特性を加えるものであると考えています。

 なお、研究の一部は奈良先端科学技術大学院大学、浜松ホトニクス株式会社との共同で行われたものです。

 この研究成果は英科学誌 Nature Materials の電子版(Advance Online Publication)において10月9日により公表されています。

※ 本件に関する問合せ
〒611-0011 宇治市五ヶ庄 京都大学化学研究所
島川 祐一 教授
TEL: 0774-38-3110 FAX: 0774-38-3125
E-mail: shimak@scl.kyoto-u.ac.jp