池田助手、高野教授らが  第8回「ロレアル色と科学の芸術大賞」金賞を受賞

 京都大学化学研究所の池田靖訓助手(物質創製化学研究系 精密無機合成化学領域)、高野幹夫教授(元素科学国際研究センター 無機先端機能化学領域)を含む研究グループがこのほど、第8回「ロレアル色の科学と芸術賞」金賞を受賞しました。

 同賞は、色をめぐる科学と芸術の創造的な出会いに貢献している人に贈られるもので、受賞した研究は「備前焼模様“緋襷(ひだすき:稲藁を巻いて焼くと赤色に発色)”の微細構造と生成過程」。 4大学1研究機関の総勢9名が、備前焼のミステリー「緋襷」の科学的解明とそれに基づく制御技術の確立に挑み、成功しました。

 緋襷とは備前の土・藁・火の協奏により焼き物表面に起こる赤色の発色です。釉薬は使われず、これまで偶然のみが生み出すものと考えられてきました。

 その赤色の謎に迫ったのが、金属学・鉱物学・冶金学・応用化学・無機化学・磁性体材料学などの専門家たちです。無機分析法・分光手法・電子顕微鏡観察法が一体となり、千年来の工芸美の秘密を解き明かしました。この共同研究で解明されたのは、次の3ステップです。

  1. 稲藁中のカリウム分と2~3%(Fe2O3)の鉄分を含む備前焼粘土が高温で反応し、液相が生成する。稲藁がない場合は、鉄を含むムライト3(Al,Fe)2O3・2SiO2ができる。備前焼の素地の赤褐色である。
  2. この液相中に板状のコランダム(酸化アルミニウム、α-Al2O3)粒子(~2μm)が析出する。
  3. このコランダム粒子の端部から鉄分がヘマタイト(酸化鉄、α-Fe2O3)として結晶化し、最終的にコランダム粒子を覆い尽くす。
 
備前焼模様「緋襷」の形成条件
 

 備前擂座緋襷壷
 (30cm×30cm)
 岡田 輝 作

1. 冷却速度

備前焼粘土および稲藁を、大気中にて1250℃まで昇温後、急冷 (a)、800℃まで10℃/min (b)および1℃/min (c)の速度で冷却した試料の表面写真。急冷した試料は赤色を示さないが、冷却速度が低下すると試料表面は赤色を示し、その速度が遅いほど赤味も増してい る。

コランダム(酸化アルミニウム、Al2O3、一部を青に着色)の端部に、ヘマタイト(酸化鉄、Fe2O3、一部を赤に着色)がエピタキシャル成長している (b)。冷却速度が低下するとヘマタイトの結晶成長は進行し、コランダム粒子を完全に覆った粒子(Al2O3+Fe2O3と示し、一部を紫に着色)が生成している (c)。

 
  2. 酸素分圧

備前焼粘土および稲藁を、窒素および酸素が N2/O2=100 : 0 (a) および 98 : 2 (b) (vol%) の混合ガス中にて 1250℃まで昇温した後、800℃まで 1℃/min の速度で冷却した試料の表面写真。「緋襷」模様の形成には、2% (vol% )以上の酸素が必要であることを示している。