所長挨拶
(元素科学国際研究センター 先端無機固体化学)教授

化学研究所は、今秋にいよいよ創立100周年を迎えます。1915年に設置された化学特別研究所を基盤とした化学研究所は、1926年の官制公布により「化学に関する特殊事項の学理及びその応用を究める」という設立理念の下でその研究活動を開始しました。この100年の間に世界は幾つもの戦禍を引き起こし、経済的にも大小の浮沈を繰り返しながらも大きく発展してきました。この歴史の中で「科学」、さらには「化学」は、社会から求められるものも大きく変化し、時には社会を先導する形で、技術や産業の発展に大きく寄与してきました。化学研究所も常に時代の変革に柔軟かつ積極的に対応しながら、さまざまな分野で先駆的かつ先進的な研究を展開して社会の発展とそれに関わる人材の育成に貢献してきました。創立100周年の節目にあたり、改めてその歴史と伝統を築いてこられた先人の熱意と努力に深く敬意を表します。
現在、化学研究所は約100名の教員と250名の学生を中心とする総勢約450名の構成員が5研究系(物質創製化学・材料機能化学・生体機能化学・環境物質化学・複合基盤化学)と3附属センター(先端ビームナノ科学・元素科学国際研究・バイオインフォマティクス)からなる研究組織の下で活動を行なってきています。その中でも特に「化学関連分野の深化・連携を基軸とする先端・学際グローバル研究拠点」(第II期)として文部科学省から認定された国際共同利用・共同研究拠点としての活動は重要であり、国際的な化学研究の拠点(ハブ)として多くの共同研究成果を生み出すとともに、若手の国際交流を積極的に進めてきました。この活動に関連した研究は、近年の幾つもの大型研究や産学共同研究へと展開されており、これまでの研究・運営体制がそれなりに機能してきたことを示しています。それでもなお、AIを中心とする近年の科学と社会の急速な進展や、コロナ感染症災禍以降の社会システムの劇的な変化を考えると、一度、組織と運営を見直す時期に来ているのではないかと所長就任時から痛切に感じていました。そのような状況の中、京都大学は2025年末に国際卓越研究大学の指定候補に選定され、デパートメント制を中心とする全学研究組織の改革に着手しました。いわば外圧による組織改革を否応なく進めざるを得ない状況になったわけです。しかし、これは見方を変えると良いチャンスとも言えます。もちろん全学の改革の方向との整合は必要となりますが、将来の化学研究所をより良く、効率的な研究組織に変革できる格好の機会と捉えたいと思っています。国際卓越研究大学としての正式認定と新組織の稼働に向けたタイムススパンが全学で設定されたことにより、化学研究所としての改革議論をじっくりと十分に時間をかけて進めていく余裕があるかどうかが懸念事項ではありますが、構成員の皆さんと積極的な議論を進めながら、今後の化学研究所の在り方を見出していきたいと思っています。社会の持続的発展とより豊かな未来を創る科学技術の進歩を見据えて、化学研究所が目指す方向と果たすべき役割を幅広い視点から議論していきます。その意味で、今年は次の100年に向けた化学研究所の礎を築く重要な1年であると認識しています。
2025年度末で所長としての2年間の任期を終えましたが、2026年度の再任により、新たな気持ちで研究所の運営に取り組んでいく所存です。寺西利治教授と小野輝男教授にはおのおの引き続き副所長と国際共同研究ステーション長を担当いただきます。また、青山所長時代から4年間副所長を担当いただいた栗原達夫教授に代わり、新たに山口信次郎教授に副所長として研究所運営に協力いただくことにしました。所内委員会委員も新たに着任した若手教員の先生方に参画いただき、新体制で運営を進めていくことにします。引き続き、皆様のご理解と一層のご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
2026年4月

京都大学 化学研究所
国際共同利用・共同研究拠点