界面構造を変えるだけで金属酸化物の機能特性を制御 ─酸素配位環境を利用した新機能探求へのアプローチ─

菅 大介准教授、佐藤 理子氏、島川 祐一教授

(元素科学国際研究センター 無機先端機能化学研究領域)

麻生 亮太郎氏(現大阪大学助教)、治田 充貴助教、倉田 博基教授

(先端ビームナノ科学センター 複合ナノ解析化学研究領域)

 

菅大介准教授    島川祐一教授

麻生亮太郎氏     治田充貴助教     倉田博基教授

この研究成果は、2016年3月8日に Nature Materialsにオンライン公開されました。
 無機先端機能化学研究領域の菅大介准教授、佐藤理子氏(修士課程卒業生)、島川祐一 教授、複合ナノ解析化学研究領域の麻生亮太郎氏(博士課程卒業生、現大阪大学助教)、治田 充貴助教、倉田博基教授の研究グループは、ぺロブスカイト構造遷移金属酸化物から構成されるヘテロ構造中の酸素配位環境(遷移金属―酸素間の結合角度)を変調させることで、薄膜特性を制御することに成功しました。
 
 遷移金属酸化物は、多彩な特性を示し、機能性材料として広く研究されています。近年、原子レベルでの酸化物作製技術が進歩し、急峻に変化する界面構造を有する薄膜や異種材料を接合したヘテロ構造の作製が可能となり、酸化物薄膜の界面やヘテロ構造が新しい物性や機能特性の発現と場として注目されています。このような遷移金属酸化物薄膜やヘテロ構造での新しい機能特性の探索や特性の制御が、基礎科学とデバイス応用展開の両面から重要な課題となっています。
 今回、研究グループでは、ペロブスカイト構造酸化物SrRuO3とGdScO3との間にわずか数原子層厚さのCa0.5Sr0.5TiO3層を挿入し、ヘテロ構造薄膜の詳細な構造と特性を調べました。その結果、SrRuO3薄膜層中の酸素配位環境が、ヘテロ界面における遷移金属と酸素の結合角度で決定されていることを見出しました(図1)。また、Ca0.5Sr0.5TiO3層の厚さを原子層単位で変化させることで、SrRuO3層全体の酸素配位環境が自在に制御でき、さらにはその磁気特性(結晶磁気異方性)も制御できることを実証しました(図2)。
 本研究の成果は、界面構造を介して酸素配位環境を変調させる界面エンジニアリングが、遷移金属酸化物薄膜の機能特性の制御に有用であることを示すものです。このような手法は他の遷移金属酸化物にも適用可能であり、新しい化学組成を持つ物質を合成するような従来の物質探求とは全く異なる材料開発の新しいアプローチも可能にします。将来のエレクトロニクスやスピントロニクスの分野における新材料の開発にもつながると考えています。
 
図1 1から4原子層厚さのCa0.5Sr0.5TiO3層を界面に挿入したへテロ構造(SrRuO3/Ca0.5Sr0.5TiO3/GdScO3)のABF-STEM像(上段)、B-O-B(B = Ru、Ti、又はSc)結合角度θ の変化(中段)およびヘテロ構造中のSrRuO3層の結晶構造の変化(下段)。ABF-STEM像では暗いコントラストが原子位置を表しており、酸素を含めたすべての構成原子の位置が明瞭に可視化されている。図中のオレンジ色の線および青色の線は、ぞれぞれCa0.5Sr0.5TiO3/GdScO3界面とSrRuO3/Ca0.5Sr0.5TiO3界面を示す。ピンク色と緑色の点線は、それぞれGdScO3とSrRuO3のバルク結晶における結合角度(θGdScO3 = 156度、θSrRuO3 = 168度)を示す。下段の結晶構造では、簡略化のためにAイオン(Sr)は省略している。
 
図2 0から4層厚さのCa0.5Sr0.5TiO3層を界面に挿入したへテロ構造のホール抵抗率の磁場依存性。界面に挿入したCa0.5Sr0.5TiO3層の厚さが、2原子層厚さ以下のヘテロ構造と3原子層厚さのヘテロ構造とで磁気特性を反映する異常ホール抵抗の振る舞いが異なっている。これはSrRuO3層の磁気異方性が変化したことを意味しており、SrRuO3層中の酸素配位環境が変調されることで磁気特性が変化していることを示す。
 

●用語解説●

 

ぺロブスカイト構造遷移金属酸化物: 化学式ABO3で表され、Bの遷移金属イオンが酸素に囲まれて作る八面体が頂点を共有してつながった結晶構造をもつ酸化物。

 

ヘテロ構造: 異なる種類や構造の材料を接合させ形成した超構造。

 

ABF(環状明視野、Annular Bright Field)法: 走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用 いて試料を観察する方法の一種で、中心部に穴のあいた円環状の検出器を用いる。酸素のように比較的軽い原子も観察できる。

 

 
 
この研究成果は、京都新聞(3月8日 29面)に掲載されました。
 
本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)研究課題「異常原子価および特異配位構造を有する新物質の探索と新機能の探求」(研究代表者:島川教授)によって支援されました。