中分子たんぱく質間相互作用阻害剤の細胞内合成に成功

大神田 淳子准教授ら
(生体機能化学研究系 ケミカルバイオロジー研究領域)

 

この研究成果は、2015年12月9日にJournal of the American Chemical Societyにオンライン公開されました。
 
 生体機能化学研究系ケミカルバイオロジー研究領域の大神田淳子准教授、Prakash Parvatkar研究員、上杉志成教授、佐藤慎一iCeMS准教授と、大阪大学産業科学研究所の加藤修雄教授との共同研究グループは、天然物フシコクシン誘導体とペプチドフラグメントを用いた細胞内中分子阻害剤の合成と、細胞内のたんぱく質間相互作用の調節に成功しました。
 
 たんぱく質間相互作用(PPI)は新しい創薬標的の宝庫として広く注目されていますが、作用面が広く浅いために低分子を基盤とする伝統的な創薬手法を適用し難いという問題がありました。最近、中分子サイズの合成分子がPPI阻害剤として期待されていますが、細胞膜透過性が低いなどの課題があります。本研究ではこのような中分子の問題を解決するひとつの試みとして、反応基を持つ低分子化合物を合理設計し細胞内で反応させることで、広い作用面を認識して阻害する中分子を細胞内で構築し、望みのたんぱく質間相互作用を阻害する方法を検討しました。
 ジテルペン系配糖体天然物であるフシコクシンは植物毒として知られ、植物の14-3-3たんぱく質(リン酸化信号伝達系に関わるPPIsの制御たんぱく質)と作用たんぱく質の複合体に結合してたんぱく質間相互作用を安定化する興味深い性質を持っています。そこで、フシコクシンにアルデヒド、作用たんぱく質の14-3-3結合ペプチドにオキシアミノ基を導入した“部品”化合物を合理設計し、細胞内でのオキシム生成反応を検討しました(図1)。その結果、細胞内ライゲーション(生理条件で進行する共有結合生成反応)が効率よく進行して対応するコンジュゲート(部品分子の縮合体)が生成し(図2)、14-3-3たんぱく質間相互作用の阻害に基づくと考えらえる顕著な細胞増殖抑制活性が観察されました。化学的に調製したコンジュゲートは全く活性を示さず、細胞内における部品分子同士のライゲーション反応が生理活性に必須であることが明らかになりました。
 本研究の結果は、細胞内たんぱく質間相互作用に対する新しい創薬戦略を提案するものとして重要と考えられます。
 
図1 複合体結晶構造を基に合理設計したフシコクシンとペプチド誘導体による細胞内オキシムライゲーション
図2 オキシムライゲーションは14-3-3たんぱく質存在下で著しく加速され、対応するコンジュゲートが90%以上の収率で生成した。
 
 

●用語解説●

 

たんぱく質間相互作用: たんぱく質分子間の相互作用の総称。生体の信号伝達を担う。約2万5千種類のたんぱく質による30万通り以上のたんぱく質間相互作用が予想されており、うち80%が細胞内の信号伝達系を構築していると考えられている。

 

フシコクシン: カビ類の2次代謝産物で強い植物ホルモン活性を示す。化学構造の一部を改変すると抗がん活性を示すなど、その多様な生理活性の解明に興味が持たれている。

 

 
 本研究は、科学研究費補助金「基盤研究(B)」、「新学術領域研究ケミカルバイオロジー公募研究」、「外国人特別研究員奨励費」によって支援されました。