高効率な固体発光特性を示す曲がった π共役系の合成に成功

村田 理尚助教、Chaolumenさん、
菅野 秦功さん、若宮 淳志准教授、
村田 靖次郎教授

物質創製化学研究系 構造有機化学研究領域

 

 

村田靖次郎教授  若宮淳志准教授   村田理尚助教

Chaolumenさん  菅野秦功さん 

この研究成果は、2015年6月18日にAngewandte Chemie International Edition誌にオンライン公開されました。
 
  構造有機化学領域の村田理尚助教、Chaolumen博士課程学生、菅野秦功さん(2013年3月学部卒業)、若宮淳志准教授、村田靖次郎教授の研究グ ループは、5員環を含むPAHのユニークな反応性を明らかにし、固体で高効率に発光する曲がったπ共役分子の合成と物性解明に成功しました。
 
 多環芳香族炭化水素(PAH)に5員環を組み込んだ化合物はCP-PAHとよばれ、高い電子受容性や特異な発光特性などが知られ、機能性材料としての幅広い可能性にも期待が高まっています。しかし、CP-PAHの多様な構造を実現させる汎用性のある合成法が確立されておらず、また、誘導体を合成するうえで 必要な反応性に関する基礎的な研究も不十分な段階にありました。
 本研究では、テトラセン誘導体の分子内酸化的C–Hカップリング(Scholl反応)により、反芳香族性のピラシレンを鍵構造に含むCP-PAH1を効率的に合成できることを実証しました。さらに、1に対してユニークな付加反応が進行することを見出し、剛直な湾曲型および平面型π共役面をもつ化合物23に誘導できることを示しました。これにより、CP-PAHを用いて新しい三次元π共役分子を創製できることを明らかにしました(図1)。
 

図1 ピラシレンを鍵骨格に含むCP-PAH 1の湾曲型・平面型π共役分子2, 3への変換と固体発光特性
 
 剛直な炭素骨格を反映して2a3は溶液中でともに強い青色発光を示しました(図1)。一方、これらの化合物は結晶中で顕著に異なる発光特性を示すことがわかりました。すなわち、3の結晶は溶液中と同様に青色発光を示したのに対して、2aの結晶では発光ピークが長波長側にシフトし、強い黄色発光を示しました。X線結晶構造解析の結果、2aの湾曲したπ共役面は凹面同士のface-to-face型ダイマー構造(図2)を形成することがわかり、エキシマー状態が安定化されることにより発光ピークが長波長シフトしたものと考えられます。π共役分子の三次元構造の違いにより発光特性が大きく変化したことは、今後の高発光性固体材料の設計指針となることが期待できます。
 

図2 湾曲型π共役分子2aの結晶中における凹面間でのface-to-face型ダイマー構造
 

●用語解説●

 

Scholl 反応:芳香族分子のC-H結合同士を酸化剤(AlCl3やFeCl3など)の作用によりカップリングさせ、新しいC-C結合を形成させる反応。

 
本研究は、JSPS科学研究費助成事業 基盤研究(B)(No. 24350024)の補助を受けて実施しました。また、X線結晶構造解析の一部はSPring-8(Proposal No. 2012B1319, 2013A1489 / BL38B1)、NMR測定の一部は京都大学化学研究所の共同利用・共同研究拠点にて実施しました。