三次元構造が制御された多分岐ポリマーの単段階合成法を開発
~リビングラジカル重合の新しい可能性を拓く

この研究成果は、英国科学誌Nature Communicationsに2017年11月30日オンライン公開されました。

 京都大学化学研究所の山子茂教授、路楊天氏(大学院生)、根本隆助教、登阪雅聡准教授らは、三次元構造の制御された「多分岐ポリマー」の実用的合成に世界で初めて成功しました。
 

 高分子材料は現在われわれの周りにあふれていますが、それらのほとんどは線状(ひも状)の高分子から作られています。一方、多分岐高分子は線状高分子に比べて流体力学半径が小さい、固有粘度が低い、末端置換基の数が多い等の特徴的な物性を持つことから大変興味を持たれており、実際に、粘度調節剤、潤滑剤、触媒、薬品輸送システムなど、多くの応用分野で一部利用されています。その一方、分子量、分布、分岐数、分岐間隔といった三次元(3D)構造が制御された多分岐分子を容易に得る方法は無く、そのような方法の開発が世界中で求められています。3D構造の制御された多分岐高分子としてデンドリマー、デンドロンと呼ばれるポリマーが知られていますが、その合成には多段階が必要であるため大量に入手するのは困難です。一方、単段階で多分岐高分子を合成する方法もこれまでに知られていますが、3D構造の制御には十分な成果は得られていませんでした。
 本研究グループは反応性の序列を持つモノマーを用いる新しい発想により、有機テルル基を持つ新規モノマーを開発しました。さらに、これとアクリル酸エステルとを、グループで独自に開発してきたリビングラジカル重合を用いて共重合することで、3D構造の制御された多分岐高分子の単段階合成に成功しました。有機テルル重合制御剤、新モノマー、アクリル酸エステルの量比を変えることで、狭い分布を保ったまま分子量、分岐数、分岐間隔を自在に変えることができます。さらに、様々な官能基を持つアクリレートモノマーを利用できることや、成長末端を変換できることも明らかにしました。
 ラジカル重合は合成高分子の約4~5割を産出する産業的に重要な高分子材料創製法です。多分岐ポリマーの構造を制御することで様々な機能の向上が見込まれます。今回の成果は、ラジカル重合を用いた機能性高分子材料開発研究へ大きな波及効果が期待されます。

 
図1: 新しいモノマー2を用いた多分岐高分子の制御合成。a) 反応スキームと b)予想される生成物の構造(X = TeMe)。

 

図2: a)第7世代多分岐ポリマーの構造と b)そのAFMイメージ、c)一分子の高さプロファイル。

 

●用語解説●

リビングラジカル重合: ラジカル重合において重合末端の活性化を保ったまま重合を行うことで、生成するポリマーの分子量と分布とを制御する技術。可逆的不活性化ラジカル重合とも呼ばれる。

 

共重合: 複数のモノマーを混合して重合する方法。

 

 

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術研究「感応性化学種が拓く新物質科学」研究領域の一環として行われました。